「ただ、問題なのは、そういう広報になりたいという気持ちの強い現在校長職についている人間が、大学側に媚びを売るようになっていることです」
雄二さんの語調が変わった。
「大学の広報という最高の再就職先を手に入れるために、自分が校長に在職しいている間に、広報として自分を雇ってくれそうな大学に、在校生をたくさん受験させようとするのです。
そんな進路指導はありえませんよね。子どもたちの未来へつながる選択を、自分の定年後の仕事のために平気で左右するなんて、私には考えられない。考えられないというか、許すことができないと思いました。しかもその理由が、再就職先にしたい大学をとてもいいと思っているからではないのです。彼らが大学の広報部長として再就職したい理由はお金と名誉欲でしょうね」
後半の方は吐き捨てるような言い方だった。雄二さんのように生徒のことを中心に考えて、生徒のために尽力してきた人物からすれば、自分の私利私欲で生徒の人生を左右するような校長を許せないのだろう。
「美術館や博物館の館長だって、別に元校長が付くべき仕事ではないと思いますよ。でも、まだ彼らの方がましだなあと思うようになりました。もともと同僚だった教員たちが、生徒のために進路指導をしようとしているのに、広報に来た元校長には圧力をかけられるし、広報になろうともくろむ校長には意味の分からない進路指導を求められるし最悪だって嘆いていました。
そりゃそうですよね。生徒たちも気の毒だと思いますが、一番きついのは現場の教員だと思います。元校長たちがたくさん大学の広報になっているせいで、ある大学だけ何度も何度もオープンキャンパスが行われて、そのたびに生徒を動員しないといけなくなったという話もしていましたよ。
元校長が広報部長をしている大学のオープンキャンパスに集まる子供たち少ないと『お前のところの学校はどうなっているんだ?』と元校長から電話がかかってきて、圧をかけられるという話も聞きました。かつて教職についていた人間が、どうしてそんなことをするのでしょう。教員と言う立場にいたことのある人間なのに、現場の気持ちも生徒のことも考えないなんて…」