ある日のことだった。夫の携帯に高橋という名前の女性から電話がかかってきたのだ。
「仕事先の人だと思いました。会社名がついていたので。私が出ると相手は明らかに、はっとしたような声色で、『あっ! 間違えました』とすぐに電話を切ってしまったんです。それであれ?と思いました」。
いくら若年性アルツハイマーにかかったからといって、人権やプライバシーがなくなるわけでない。容子は常々そう考えていたので、必要以上に夫の携帯を見ることはなかった。金銭面に関しても、判断力が低下している夫に成年後見人を依頼をしていたほどだった。
「女の勘って本当にあるんですね。一瞬で浮気相手だとわかりました。もちろん隅から隅まで携帯を見ましたよね、そりゃ。そしたら、メールが出てくるわ、出てくるわ。結構長い付き合いのようで定期的に会っている、そんな雰囲気でした」。
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