公益社団法人日本医師会の「女性医師支援センター」によると、「日本では50年以上前から父親の立ち会い出産が広まっており、2013年度の全国調査によると、父親の立ち会い出産は全体の53%に及」んだのだいう。
10年前の調査結果で5割を超えているのだから、現在ではさらにその割合は増えている可能性が高い。同センターは「分娩施設はなじみのない環境で緊張も高まるため、パートナーの付き添いは精神的な安定をもたらす」と、立ち会い出産の有用性についても述べている。
しかし、立ち会い出産によって、生まれてきた子どもや妻への愛情が深まったという男性もいれば、立ち会い出産が原因でセックスレスに陥った男性がいるのも事実だ。西野彰吾(仮名)は、結婚を切望し口説き落とした妻と、もう3年近く性交していない39歳の会社員。話を聞くと、その悩みは想像以上に深刻なものだった。
「立ち会い出産はほとんど検討の余地もなく、義務みたいな感じであらかじめ決まってましたね」
彰吾は無表情のまま話し始めた。
「妻が子どもを産んだクリニックは、立ち会い出産をことのほか推奨していました。沐浴などを学ぶママパパ教室も、立ち会い出産をしないなら受けなくていいって、受けさせてもらえないみたいでした。立ち会い出産しないダンナさんだって、沐浴教えてあげればいいじゃないですか、ねぇ」
立ち会い出産をすべきかどうか、妻と話し合わなかったのかと訊ねると、彰吾は苦笑いしながらかぶりを振った。
「妻は最初から、私が頑張ってる間、ずっと手を握っててねって言ってました。周りの友達もみんなダンナさんに立ち会ってもらってるって言うんですよ。うちはうち、よそはよそっていう理屈が通用しないタイプなので彼女は。あと、絶対に感動するからって言って、感動ありきで話進めてましたね」
彰吾夫婦は社内結婚だ。会社の後輩だったという3歳下の妻の写真を見せてもらうと、かつてCM起用ランキングで何年も続けて首位に君臨していた女優に似ている。
「ほんとによく言われます、似てるよねって。実物はもっと似てて、童顔なんだけど色っぽくて、よく笑う明るい子だし。オレ一世一代な感じでアプローチしまくったんです。結婚式の日はうれし泣きしたくらい幸せでした。親も凄く喜んで。こんな可愛い人が彰吾と結婚してくれた!とか言って」
大好きな可愛い妻とずっと一緒にいられる権利を得た彰吾は、妻が望むことを片っ端から叶えるつもりで新婚生活を始めたという。旅先も住む場所も子づくりのタイミングも、何もかも彼女の意見を尊重してきた。分娩室で手を握って応援してほしいと言われたら、断る理由はない。長丁場になるのかな? と一瞬不安になったくらいで、後にそれが深刻な悩みの原因になるなどとは考えてもいなかったのだ。