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LIFESTYLE SONY元社員の艶笑ノート

「俺たちは朝日だ!」天才ヤクザとしつこい新聞勧誘員の「仁義なき戦い」

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まだ僕がSONYに入る前、学生時代に引っ越した府中にはヤクザさんが多かった。
街を歩くと、田舎の少年が見てもそうとわかるような人が大勢いた。パチンコ屋で何気なく隣を見ると、明らかにヤクザさんだろうと思われる人が座っていたし、食堂に行ってもきっとそうと思われる人が食べていた。

ぼくの隣の部屋にはヤクザのおじさんが住んでいた。パンチパーマで小太りで、いつも横縞のポロシャツを着ていた。あくまで田舎の少年だったぼくのイメージだが、もしあの人がヤクザさんではないとすれば、一体どんな人がヤクザさんなのかと思えるほど、漫画から抜け出して来たようなイメージ通りのヤクザさんのように思っていた。

そんな人が隣室に住んでいるなんて想像もしていなかった。引っ越しの挨拶をしようと、確か、おまんじゅうかおせんべいを持って挨拶に行った際、彼が現れた時は、エライところに引っ越してしまったと思った。ヤクザのおじさんは菓子折を受け取ると、

「困ったことがあれば何でもいえよ」

と、ぼくに優しくいってくれた。こうして、ビクビクしながら、ぼくの府中での生活は始まった。

アパートには鉄製の外階段があり、安普請のため、人が上がってくるとすごい振動でアパート全体が揺れた。
アパートには、とにかく色んな業種の営業マンがきた。新聞に健康食品、ふとんのセールスに英会話教材。中には新興宗教の勧誘や消火器の押し売りまできた。彼らが階段を上がるたび、アパートが揺れた。ときは昭和の「押し売り全盛時代」だったのかもしれない。

階段は真ん中の部屋の前についていた。なので、上がってきた人はまずヤクザさんの部屋の前に立つことになる。そうとは知らずにノックすると、出てくるのはパンチパーマのおじさんだ。
その風貌を見て、「間違えました」といって逃げるように去っていったものも多い。

ボロアパートに引っ越して間もなく、部屋の前に「毎日新聞」が置いてあった。隣の部屋の前にも同じ新聞が置いてあった。ぼくが拾いあげようとすると、隣のドアが開き、

「兄ちゃん、それ、手えつけちゃいかんよ」

とヤクザのおじさんが言った。

「読んだといわれて金取られっから」

そんな罠があるとは知らなかった。都会は油断も隙もないと思った。
翌日も毎日新聞は配られていた。前日の分も置かれたままだ。

毎日新聞は、その名の通り、毎日、勝手に新聞を置いていった。部屋の前には次第に毎日新聞が溜まっていくのだが、ヤクザのおじさんに言われた通り、触らずに放置した。何しろ、押し売りだって追い返してくれる人だ。言われた通りにしたほうがいい。

くる日もくる日も毎日新聞は配られ、一ヶ月もたつと山積みとなった。隣の部屋も同じだった。
そんなある日のこと、新聞の勧誘が来た。てっきり毎日新聞かと思いきや、読売新聞だった。



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