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CAR 交通事故鑑定人は見た!

あなたならどうする?交通事故メカニズムを読み解く事例「歩行者と乗用車の衝突事故」の場合

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■加害ドライバーの証言内容は、物理的に実現不可能だった

まず中島氏が注目したのは、加害ドライバーの証言にあった、「ハンドル操作による回避行動をした」という点だ。冒頭で触れたように、加害ドライバーがはじめに被害者を発見したのは、交差点に差し掛かる手前。加害ドライバーは、そこから右側へとハンドルを切ったという主旨の証言をしたという。

加害ドライバーが被害者の存在に気付いたという交差点に差し掛かる手前から、実際に衝突した地点までは、わずか7.3m、仮に時速40km/hの法定速度で走行していたならば、0.657秒の間にハンドルを大きく操舵する必要がある。しかも、衝突地点はほぼセンターライン上であったから、ドライバーが右にハンドルを切ってしまったことで、被害者に衝突してしまったことになる。

ただ、その間はブレーキで最大制動をかけているはずであり、なおかつドライ路面での限界制動が落ちるスタッドレスタイヤをはいていた加害車両では、加害者が証言した回避のための走行軌跡は、物理的にとることが不可能。前方に歩行者を発見したならば、まずはブレーキによる減速が最優先。旋回に必要なステアリング操作ができて、ブレーキを踏めないということはあり得ない。

これらのことから、中島氏は、加害ドライバーは衝突回避のためにハンドルを切ってセンターライン付近で被害者と衝突したのではなく、交差点に進入する手前から、センターラインを跨いで走行していた可能性がある、と指摘したのだ。

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歩行者を見つけてから横移動するときの軌跡のシミュレーション。途中からの左旋回がいかに異常な操作かがわかる

もうひとつ、加害車両が仮に40km/hから急制動していたならば、被害者は衝突地点から5m程度しか飛ばされることはないはずだが、本件では、被害者が、はねられたあとに最初に着地した地点は、衝突地点から13mも前方(最終的には衝突地点から約25m前方に停止。また被害者の受傷状況から、ボンネットに乗って運ばれる状況にはならなかったと推定)。このことから、加害車両は、制限速度よりも高いスピードで走行しており、それによって制動距離が延びたと推定される。

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加害車が自身の車線を遵守して走行していたならば、被害者に気づいた時点の状況から右に旋回する理由はない。むしろ、加害車は右に移動したからこそ、被害者と衝突してしまっている

さらに、加害ドライバーは、「(25m)前方に(倒れて停止している)」被害者を確認したため、衝突後に一旦停止した」と証言しているが、加害車両のフロントガラスは、衝突の衝撃で蜘蛛の巣状のヒビがはいっていたため、加害ドライバーは前方を見通せず、路上に倒れた被害者を見ることはできなかったはず。ここにも証言に矛盾があると見抜いた。続編では、加害者の矛盾、そして交通事故鑑定人が導いた結果をご紹介する。

続編では、加害者の矛盾、そして交通事故鑑定人が導いた結果をご紹介する。

Storyteller:Hiroshi Nakajima
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:Raptor,gettyimages
Edit:Takashi Ogiyama



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