野口浩二(29歳)は、都内の菓子メーカーに勤める会社員。マッチングアプリで知り合った山中香(22歳)と交際しているのだが、付き合い始めて日は浅く、まだ一緒に撮った写真はない。
しかし、彼女自身は写真にハマっているのか、撮影をマメにしている様子。
彼女が何気なくスマートフォンを操作している際、ふと横から画面を見てみると、フォルダには過去に撮影した写真がたくさん入っていた。
パッとみた印象だが、犬や猫が好きなのか? やたらとペットの写真が多い。
しかも、犬や猫の種類は数種類では無い、トイプードル、チワワ、パピヨン、ミニチュアピンシャー、アメリカンショートヘアー等々……。

浩二自身、動物が好きなので気が付いたのだが、彼女のフォルダのほとんどは犬や猫の写真でビッシリ埋まっていたのだ。
その時の浩二は、特に気にすること無く「動物が好きな優しい女性なのだな」としか思わなかったのだが、まさかあのような理由でペットを飼っていたとは……。
浩二が香に惹かれたのは、地味な見た目と家庭的な雰囲気だった。
彼は大手企業の企画開発部に勤めていることから、モテないわけではない。実際に知り合いの紹介などで、女性を紹介される機会も多いのだが……。
浩二は紹介される女性の興味が、自分を愛してくれるのでは無く、自分の市場価値にだけ興味を持っていることがすぐに分かった。だからこそ、女性に傷つけられるのも嫌だし、異性と付き合う機会が少なかったのだ。
正直、自分の金や地位目当てで接してくるような女性にウンザリしていた。だからこそ、見た目も性格も平凡な香に惹かれたというわけだ。
マッチングアプリに登録されていた香の写真は、黒縁のメガネにニット、ヘアスタイルも地味で化粧っ気もなかった。
また、他のマッチングアプリ登録者のキラキラしたプロフィールとは異なり、香のプロフィールには「読書や手作りが好きで、料理なども得意です」と書かれていて、家庭的な雰囲気が漂っていた。
一方で、彼女はスタイルも良く、化粧はしていないが「美人」ということはすぐにわかった。だからこそ、浩二は香と付き合うことにしたのだ。
香と付き合う期間が長くなるにつれて、浩二には気になることがあった。
なぜだか分からないのだが、彼女の家に行くと、飼っている犬や猫の種類が毎回違っているのだ。
前回、遊びに行ったときには小さなトイプードルがいた。しかし、今回遊びにくるとヨークシャーテリアと犬種が変わっている。
しかも、写真のフォルダにある犬や猫を撮影しているのは、明らかに彼女の家なのだが、猫や犬の種類だけでなく毎回、一匹一匹ペットの表情(同じ種類でも、別の犬または猫なのだろう)も違っているのだ…。
また理由は分からないのだが、浩二の自宅には来るものの香は決して自宅に上げてくれようとはしなかった。
「今は散らかっているから」
「また今度ね」
など、何かと理由をつけて、自宅に上げてくれることがなかったのだ。
彼女の自宅の様子が分かるのは、送迎時に玄関からチラリと見える、居間の様子だけだった。そして、その居間には、毎回違う犬や猫がいるのだ。
家庭的な彼女が浩二に隠していた衝撃の事実とは……。後編に続く。
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