「よく『血は水よりも濃い』と言います。血の繋がった家族ならば、お互いに深く理解し合えるはずと思う人も多いでしょう。ですが、実の兄弟姉妹でも分かり合えないこともあります。それどころか、いったん相手を嫌いになると、血が繋がっているだけに憎しみも深くなってしまうのです」
家族間のトラブルに詳しい、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう語る。今回はそんな家族間のトラブルの一例をご紹介する。話しを聞いたのは、近畿地方に住む永沢詩織さん（35 仮名）。彼女には、３つ年下の妹・香澄さんがいる。姉妹の父親は、詩織さんが小学生の頃に病死。その後、母親が女手ひとつで２人を育ててきたが、父親の治療費で作った借金もあり、ずっとお金の苦労がつきまとったそうだ。
「私が中学校に入学した時は制服が用意できず、卒業生から古い制服や学生カバンを譲ってもらったくらいです。普段着もきちんと洗濯してはいましたが、古びて擦り切れていたりサイズが合ってなかったりで、自分で言うのも何ですが、『見るからに貧乏』という感じだったと思います」
昼夜を問わず働く母の助けになろうと、詩織さんは中学の頃から家事全般を引き受け、高校に進学してからはアルバイトで家計を助けた。中卒で就職することも考えたが、母親に必死の形相で止められたのだという。
「『今の時代、せめて高校までは出ていないと、ロクなところに就職できない』というのが母の持論でした。たしかにその通りとは思いますが、お金がなくて部活動や友達づきあいも満足にできず、当時は学校に通っていても非常に辛かったのを覚えています」
そんな慎ましやかな暮らしにさらなる危機が訪れたのは、詩織さんが高校３年、香澄さんが中学３年の時。長年の苦労が祟ったのか、母親が病に倒れたのだ。
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詩織さんは高校を中退して働くことを考えたが、「高校くらいは卒業してほしい」という母親の考えは変わらなかった。卒業までの１年ほどは、詩織さんのアルバイト代とわずかな貯蓄だけを頼りに、生活を極限まで切り詰めて過ごしたという。
「あの頃は本当に生きることに精一杯でした。生活保護も申請しましたが、私が働けると見なされて受給できなかったんです。アルバイトの時間も増やしましたが、焼け石に水で……。だから、妹が苦しんでいたことに気づけなかったんです」
じつは妹の香澄さんは、家が貧乏なことを理由に中学校でいじめに遭っていた。それもあって「高校に行きたくない」と言い出したのだ。そんな香澄さんを、詩織さんも母親も必死で説得した。詩織さんが高校を卒業して就職すれば、生活に余裕ができるから、と……。
だが、詩織さんが就職しても状況はあまり変わらなかった。高卒の事務員では、給料もたかがしれている。なのに妹の学費に母親の治療費と、お金は湯水のように出て行ってしまう。そして詩織さんが風俗店でのアルバイトを決意するまでに、そう時間はかからなかった。
「母には『知り合いの店を手伝う』といって、ソープランドで働き始めたんです。短時間で稼げるし、日給が当日手渡しで貰えるのもすごく助かりましたね。妹が高校に行っている３年間だけと心に決めて、とにかく稼ぎまくったんです」
妹の香澄さんが就職すれば、こんな暮らしとも決別できる。そう思っていた詩織さんだが、高校を卒業した香澄さんは突然、「私、もうこんな家、出て行く！」と言い出したのだ。
「なんでそんなこと言うの？ 一緒にお母さんを支えていこうよ」
「お母さんは病気だからって寝てばっかりだし、お姉ちゃんは毎日キレイにお化粧してチャラチャラ出歩いててズルい！ 私ばっかり掃除して買い物して料理して洗濯して、もう家事なんかしたくない！ 自分で稼いだお金は、自分のために使いたい！」
「お化粧もおしゃれも、お金を稼ぐためなんだよ。お母さんの治療費や香澄の学費だって必要だったし……」
☆生活を支えるために自らを犠牲にして働く詩織さん。しかし、香澄さんにはそんな姉に対して複雑な想いを募らせていた。貧しいながらも3人でやってきた永沢家はどうなってしまうのか。次回、姉妹を決別へと導いた出来事を詳細にレポートする☆
