「驚きました。彼の一言が予想外すぎて、回答が全く頭に浮かびませんでした。そして絞り出した答えが『二人で喋りたいから』。私の素直な気持ちでした。彼と話をしたい。何を考えているか、私が何を考えているかを話したい。結婚16年目にしてやっと言えた言葉でした」
しかし、隆はその誘いをあざ笑うかのように辛辣な言葉を投げてきた。
「君と話しても何も生み出さないし、何も得るものがない。お互い無駄な時間に終わるだけだし、無意味だよ。ま、君にそれを期待して結婚しているわけではないから、いいんだけどね。本当はこんなことを言う必要もなかったのに、君がバーに行って話そうなんて言うからこういうことになったんだよ」
「愕然としました。このままこの人と一緒に部屋にもどって同じ空気を吸いたくない! そう思った私は、一人で飲んでくると言い、足早にホテルのバーに向かいました。涙が止まりませんでした。エレベーターが開き、閉まる音が背中越しに聞こえ、より一層悲しくなりました」
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