口数が減った娘に「何かあった?」と問うても黙ったまま。「何でも話して」と言いながら娘の頬に手をやると払い除けながら「汚いから触らないで。気持ち悪い」と睨みつけられた。
美和子の血の気が引いた。娘にバレてしまったのだ。娘の憎悪に満ちた顔が、恋に狂った美和子を一瞬で正気に戻した。
娘は美和子の携帯のロックを外して、彼とのやりとりを見たのかもしれない。もしくは尾行したのかも。確かめる勇気はない。
©Getty Images
夫はまだ気付いてはいないようだが、知れば黙ってはいない。離婚を突きつけ、ここをひとりで追い出されるだろう。もはや藤井に会うのも怖くなり、LINEで別れを告げて、連絡先を削除した。
その後に入った千佳からの電話が、美和子をさらに奈落の底に突き落とす。
「藤井と不倫してるって嘘よね? こっちで噂になっていて」
どこで見られたのだろう。人の口に戸は立てられない。噂はすでに大きく広まっているに違いない。もはや四面楚歌だ。夫に離婚されても実家には戻れない。同級生の笑いものになるだけだ。千佳に嘘をつくのは胸が痛むが、否定しながら精一杯笑い飛ばした。
それを聞いて安心した千佳が
「良かった~。藤井が離婚したのは、浮気グセのせいみたいよ。しかも、それを自慢していたんだって! 美和子もそっちで手を出されないよう気を付けて」
誠実で爽やかな彼のイメージは崩れ落ちた。家庭も思い出もグチャグチャだ。どこで間違ったのか。どのタイミングで自分の欲望を押さえておけば良かったのか。
もはや考えても後の祭りだ。
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