年末年始、久しぶりの里帰りのタイミングに合わせて、同窓会が行われることが多い。コロナ禍で大人数での同窓会は減ったものの、少人数での集まりを予定している方もいることだろう。
もし、同窓会で「かつて片思いをしていた相手」と出会ったら……? 美化した思い出に、大切な日常を狂わされた美和子の話をしよう。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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美和子は外資系企業に勤める夫と私立の中高一貫校に通う娘の三人で、都内で暮らす専業主婦だ。一見、裕福で幸せそうに見えるが、実情はそうでもない。
地元の大学を卒業して銀行に就職した美和子は、今の夫のアシスタントをしていた。仕事ができる先輩として尊敬はしていたが、恋愛感情はなかったという。
「当時その支店内では、30代で独身なのは彼だけでしたから、結婚を焦っていたんでしょうね。もの凄いアプローチをされているうちに結婚してもいいかなと思うようになって。彼が東京に転勤が決まったのを機に結婚しました」
結婚後、まもなく娘が生まれた。誰も知り合いのいない土地での子育ては、想像以上に不安で辛かった。頼れる相手は夫だけだったが、外資系に転職した頃から夫はモラハラ気味になり、愚痴を言える雰囲気ではなかった。
夫は自分にも厳しい分、美和子に対してもダメ出しばかりで、褒めることをしない。特に食事作りにはうるさく、美和子は朝から夕飯の献立を考える毎日だ。ママ友づくりに励んだ時期もあったが、ランチをする相手はいても本音を話せる友人はできず。小学校の参観日などでは、他のお母さん方に会うのを苦痛にさえ思うようになっていた。
「どうして、私には人が寄って来てくれないのだろう」
孤独を募らせる美和子の癒しは、娘の笑顔と家事を終わらせた後に観る韓国ドラマだった。ヒロインに自分を投影させ、非日常の世界に胸を焦がした。
「こんな情熱的な恋愛をしたかったな」
娘は中学受験を経て志望校へ無事入学したが、美和子はすっかり疲れ果て、ますますドラマの世界へ引き籠った。
そんなある日、高校の同窓会の知らせが届いた。仲が良かった数人とは今でも年賀状のやりとりをしているが、もう10年以上も話していない。
「億劫だな……」
返事を先延ばしにしていると携帯が鳴った。
「美和子?」
懐かしい声。部活で一番仲が良かった千佳からだった。千佳は今回の同窓会の発起人のひとりで、美和子からの返信がないのを心配して電話をしたという。
「携帯番号変わっていなくて良かったよ。何年ぶり?」
底抜けに明るい千佳の声に釣られて美和子の気持ちも弾み、心を許せる友との会話を楽しんだ。
「藤井も来るからおいでよ」
美和子が片想いをしていた相手、藤井。その名前を聞いただけで、一気にあの頃へタイムスリップした。
「絶対に行く~(笑)‼︎」
口調まで “あの頃” のようになっていた。
年末の同窓会に備え、ドラマを観ていた時間をエステやジムに充てた。服やバッグを買うとさらに心は浮き立った。
「物欲なんて、ここ数年なかったのに」
毎月夫から渡される生活費の中から、こつこつ貯めたへそくりが役に立った。このへそくりを「逃亡貯金」と名付け、夫との生活に精神の限界が来た時のために備えていたのだ。
12月の娘の学校の懇談会には同窓会の予行練習と思って出かけた。明るいオーラを纏っていたせいか、数人のお母さん方から話し掛けられ、会話も弾み連絡先まで交換した。
「気は持ちようとはいうけれど」
自分でも笑えるほど毎日が楽しくなった。そうして娘が冬休みに入るとすぐに実家へ帰省。早すぎる帰省に当然夫から文句を言われたが、何とも思わなかった。
いよいよ同窓会当日。 会場に入ると、大声で笑いながら親し気に話をしているグループがいた。地元に残っている同級生たちだろう。今までの美和子なら、疎外感を抱いてその場から逃げ去りたくなっていただろうが、この日は高揚感に満ち溢れ、ひとりで立っていても平気だった。
「いた」
かなりの出席者がいたが、藤井の姿はすぐに見つけることができた。体育祭や文化祭でも、彼の居場所はすぐにわかった。高校三年間、ずっと密かに見つめていた人だ。
飲み物を取る美和子の背後から、男性が声をかけてきた。藤井のグループにいた山田と斉藤だ。
「三田さんでしょ? ますます綺麗になったね!」
2人は就職と同時にずっと東京で暮らしているという。
「藤井もそうだよ。おい!藤井!」
美和子がずっと待ちわびた瞬間が来た。彼が微笑みながらこっちへ近づいて来る。さらに精悍さが増した顔つき。スーツを着ていてもわかる鍛えられた身体。あの頃より、彼はもっと素敵になった。
「久しぶり、僕のこと覚えてるかな」
Text:女の事件簿調査チーム