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スバル WRXのフルモデルチェンジはなにを示すのか?

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安全装備や自動運転でますます高額化している現代のクルマ。上手に購入する方法は? さらに、所有してからも様々なトラブルやアクシデントが起きるのがカーライフ。それら障害を難なくこなし、より楽しくお得にクルマと付き合う方法を自動車ジャーナリスト吉川賢一がお伝えします。

2021年9月10日、北米で新しい「WRX」が公開されました。ここ日本では11月にデビューが予告されています。WRXといえば、ラリーをはじめ、数々のモータースポーツで実績を挙げる、高性能モデル。それだけにファンからの期待は大きかったのですが、公開されたニューモデルに、動揺を隠しきれなかった方も多いことでしょう。

セダンには見慣れない樹脂のフェンダーアーチモール、2.4L直噴ターボで271psという控えめなパワー。北米仕様とはいえ、ぱっと見のデザインやスペックだけを見ると「WRXがこれでいいのか」と、思ってしまうところですが、よくみていくと、新型WRXにはスバルのこだわりが随所に織り込まれているのです。

新型WRXに隠された、「スバルのこだわり」についてご紹介していくとともに、そこから見えてくるスバルのビジョンについても、考察してみたいと思います。

 

■新プラットフォームによって飛躍的に進化した基本性能 

新型WRXについてスバルは、「WRXらしさを継承しつつ、パフォーマンスカーとしての価値、そして実用的なセダンとしての価値を革新的に進化させた」モデルだと説明しています。

パワーユニットは、2.4L水平対向4気筒直噴ターボエンジン「FA24型」を搭載。最高出力は271hp(約275ps)、最大トルクは258lb.-ft(約35.7kgf・m)というスペックです。STiではないから、とはわかっていても、やはり新型WRXにしてはかなり控えめな数字に感じられます。

この新型WRXのエンジンは、北米向けの「アウトバック」にも採用されているエンジン。サーキット走行も視野に入れた、気合の入ったエンジンというよりも、ロングツーリングでの快適性や、日常域での愉しさを追求した、GTカー寄りのユニットということになります。

北米仕様のWRXに搭載されるFA24型2.4L 水平対向4気筒直噴ターボエンジン。最高出力は271hp(約275ps)を発揮する

シャシーについては、新型レヴォーグなどにも使われた「スバルグローバルプラットフォーム」を、WRXとしては初めて採用。フルインナーフレーム構造や構造用接着剤を組み合わせることで、ボディやシャシーをさらに高剛性化しています。

シャシー性能はクルマの基本性能を左右する大切な要素。高い剛性はサスペンションやタイヤ、ブレーキのポテンシャルを引き出し、快適な乗り心地、走りの愉しさ、安全性にも影響を与えます。そういった意味では、新しいプラットフォームを採用した新型WRXは飛躍的に進化したことになります。

しかし、セダンなのにフェンダーのあたりが「樹脂パーツ」になっていて、SUVのような雰囲気になっているところは、WRXファンとしては、「まさかブームに乗っかろうとしているのか!?」と、かなり気になるところ。実はここにもスバルのこだわりがありました。

 

■樹脂のままとしたのは「性能を優先させた」結果

新型WRXには「スポーツサイドガーニッシュ」と呼ばれる樹脂のフェンダーアーチモールが装着されています。こうしたスタイルはSUVでは一般的ですが、セダンではちょっと他に見当たりません。

このスポーツサイドガーニッシュ、よくみると表面にヘキサゴンパターンの模様が施されています。これは「空力テクスチャー」と呼ばれるもので、スバルBRZ/トヨタGR86のフロントバンパーにも採用されているものです。この面に走行風が当たると空気の剥離が抑えられ、大きな渦の発生を防ぐ効果があります。ぱっと見では分からないほど精緻で微妙な表面処理なのですが、これにより乱流の発生を抑制し、操縦安定性を向上させることができる、とのこと。

新型WRXには樹脂パーツの「スポーツサイドガーニッシュ」が装着される。表面には「空力テクスチャー」と呼ばれるヘキサゴンパターンの模様が刻まれる

さらにフロントフェンダーの後部とリアバンパーの後部には、エアアウトレット(排気口)が設けられています。これにより車輪付近の空気が外に排出され、前輪タイヤの揚力を抑え、操縦安定性を向上させることが可能。

この樹脂部分を塗装することはもちろんできますが、塗装してしまうと、見た目はカッコ良くなりますが模様の隙間に塗料が入り込んでしまい、空力パーツとしての効果は無くなってしまいます。この空力テクスチャーを有効なものとするために、細かな模様を実現できる樹脂成型で作ったパーツを装着した、と考えるほうが自然でしょう。つまりこの樹脂部分は、WRXの走行性能を支える重要なパーツのひとつであり、決して「SUV風に仕立てた」わけではないのです。

 

■WRXの未来を見据えた、フルモデルチェンジ

スバルを代表する高性能モデルであるWRXには、わかりやすいスペックを期待しがちではあります。が、今回のフルモデルチェンジでは、エンジンパワーや走りに特化した目新しいメカニズムというよりも、新しいプラットフォームによる総合性能の向上や空力テクスチャーのような、見た目では伝わりにくい本質的な部分に注意が向けられているように思えます。

とにかく、派手な演出と盛大なエンジン音を奏で、そのままサーキットに持ち込んでも相当なパフォーマンスが期待できるクルマ、というのではなく、街乗りでもロングドライブでもラフロードでも乗って愉しくて快適、かつスバルの強みを感じられるような総合的なバランス、これこそがWRXの価値、というメッセージではないでしょうか。

ロングドライブでもラフロードでも快適で、走りも楽しめる。スバルの特徴を生かし、GTカー要素の強いモデルとなった

クルマの総合的な性能でWRXの魅力を高め、ブランド化することができれば、将来的にハイブリッドやEVモデルのWRXが登場したとしても、ユーザーに受け入れてもらえるでしょう。

脱炭素社会の実現に向けて各メーカーが電動化を進めています。そんな中、スバルらしい個性をユーザーに届けたい。内燃機関だけに頼らず「ハイパフォーマンスカー」として受け取ってもらいたい。今回のWRXのフルモデルチェンジには、そんな思いが込められているように感じます。

とは言いつつも、この基本性能が向上した新型WRXをベースに、新型超弩級スペックにチューンアップされたSTiが登場してくるのを、楽しみにしているのは私だけではないはず。

Text:MMM-Production,Tachibana Kazunori
Photo:SUBARU
Edit:Takashi Ogiyama

スバルWRXの公式サイトはこちら



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