2021年10月4日、北米ホンダは、プロトタイプとして偽装された新型シビックタイプRの写真2枚と共に、タイプRの開発が順調に進んでおり、2022年内には市販する、と発表した。
次期型シビックタイプRについては、2021年8月に日本登場となった新型「シビック」発売のリリースの中で、「新型「シビックタイプR」の発売を2022年に予定しています」としていた。が、今回の順調に進んでいるとの発表は、ファンとしては、(全車電動化を推進中のホンダだけに)ほっとするところだ。しかしながら、エンジンやスペックなど、詳細については依然としてわかっていない。そこで、次期型シビックタイプRがどういった姿で登場するのか、予想してみよう。
■タイプRはホンダの意地!! 「FF最速となるのは当たり前」
シビックタイプRといえば、ドイツのニュルブルクリンク北コースを舞台にした、FF最速をかけたタイムアタックが印象的だ。メガーヌRSやゴルフGTIなど、欧州メーカーのスポーツハッチバック勢がFF最速マシンとして台頭していた中、2017年4月、その3ヶ月前に開催された東京オートサロンで初披露された、プロトタイプのFK8型シビックタイプRが登場、7分43秒80をたたき出し、FF最速の座を手にした。
だが、そんな状況を許さなかった欧州ルノーチームは、それから2年後の2019年4月、打倒シビックタイプRを目指して用意した「メガーヌR.S.トロフィーR」で7分40秒100をたたき出し、再びニュルのFF最速ホルダーとなる。しかも、それにとどまらず、ルノーチームは、ホンダのホームサーキットである鈴鹿サーキットにまで乗り込み、2019年11月、「2分25秒454」という、鈴鹿でのFF最速タイムを勝ち取り、「逆襲」を果たす。
だが、もちろんホンダも負けておらず、2020年7月には、改良型シビックタイプRを駆る井沢拓也選手によるドライビングで、鈴鹿サーキットのFF車のレコードタイムとなる「2分23秒993」を記録し、鈴鹿FF最速の座を奪還している。
コロナ禍がなければ、シビックタイプRの開発チームはニュルへと赴き、メガーヌの持つFF最速タイムを抜き返すシナリオもあっただろうが、残念ながらそのチャンスには恵まれず、ベースのシビックがフルモデルチェンジをしたことで、FK8型タイプRは幕を下ろし、次期型へとバトンをつないだ形だ。
■タイプRのハイブリッドは「ない」と予測
ベースとなる新型シビック(FL1型)は、2021年8月に日本で発売開始となった。5ドアハッチバックのボディに、1.5Lターボエンジンを搭載。CVTに加えて、なんと6速MTが用意されていた。後に、e:HEV仕様も追加される予定だという。
ホイールベースを35mm伸ばして後席空間を拡大、構造的に車体剛性を高め、さらにボディの鉄板同士を繋ぐ構造用接着剤の塗布長さを、先代の10倍ちかくにまで伸ばしたという。だが基本のプラットフォームは流用しており、サスペンションはFK型と同じく、フロントはデュアルアクシス・ストラット、リアはマルチリンクだ。
改良したのは、フロントサブフレームを軽量なアルミ素材としたことや、ジョイントおよびベアリングの低フリクション化を行った、という程度。こうした新アイテムは、タイプRでもそのまま採用になるだろう。
新型シビックタイプRで最も気になるのは、やはりパワートレインだ。冒頭でも少し触れたが、ホンダは2040年には全車をEVもしくはFCEVにすると発表している。が、今回の次期型シビックタイプRに関しては、FK8に搭載されていたK20C型の2.0L VTECターボエンジン(最高出力235kW(320ps)/6500rpm、最大トルク400Nm/2500-4500rpm)の改良型になるのでは、と筆者は予想している。FK8型での実績や、信頼性の高さも加味して選択してくるはずだ。
新たに、「VTECターボ+ハイブリッド」という新パワートレインを作る、という可能性もあるが、モーター駆動による加速初期のパワーアップは魅力的だが、モーターとバッテリーを含めて100kg以上にもなる重量増加は、相当なハンデとなる。
また、相当なハイグリップタイヤにしないと、前輪のトラクション不足(パワーに負けて駆動輪が滑ってしまう)にも陥りかねない。ハイブリッド化の線は、あるとしても、軽量なシステムのマイルドハイブリッド型になるはずだ。重たいボディをパワーアップでねじ伏せるか、ひたすらに軽量化を目指すか、タイプRの開発担当チームは、後者で戦うことを選ぶと、筆者は考えている。
FL型では、ホイールベースが35mmも伸びたことで、操縦安定性は安定方向へと進む。だが全長が伸びたことは、スポーツカーでは重要となる「慣性」も増える傾向だ。FK8のタイプR後期型(2020年10月~)の「リミテッドエディション」で行った「23kg軽量化」は、タイム更新へ大いに貢献したこともあり、おそらくFL型のタイプRでも、「軽量化」がキーワードとなるだろう。
■まとめ
シビックタイプRの開発責任者である、柿沼秀樹氏によると、「進化を止めないことがタイプRの存在価値」だという。ということは、FF最速をかけた夢の競演はまだまだ続く、と期待していていいだろう。排ガス規制や、騒音規制など、厳しい規制の施行が予定されている2022年。次期型シビックタイプRがどんな姿で登場してきてくれるのか、非常に楽しみだ。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:HONDA
Edit:Takashi Ogiyama