日本の産業を支えている「軽トラ」。小回りと積載性に優れ、「働くクルマ」として国内で大活躍している軽トラですが、実はクルマ好きからは「走りが楽しい!」と評価されてもいるのです。スポーツカーとは対極にいるクルマに思えますが、なぜ走りが楽しいのでしょうか。スポーツカーと軽トラにある共通点を探っていきます。
■シャシーの頑丈さと、後輪駆動
軽トラは、重たい荷物(最大積載量350kg)を積んでも安全に走行できるよう、乗用軽自動車よりもシャシーがはるかに頑丈に造られています。さらには、農業や漁業、林業など、過酷な使用条件で使用されることが多いため、下回りが簡単に錆びてボロボロにならないよう、耐久性も必要。
このシャシーの頑丈さは、ハンドリングの肝になる部分。もちろん軽トラは速く走るために設計されたシャシーではないですが、しっかりとしたシャシーがいかにハンドリングにとって大切なのか、軽トラに乗ればすぐにその良さが分かります。
さらに軽トラはすべて後輪駆動です。これは荷台を長く取るためと小回りを良くするため、という目的があっての設計なのですが、スポーツカーに多いレイアウトでもあります。ナチュラルなハンドリング性能を楽しみたいなら後輪駆動が最適ですが、軽トラでもその楽しさ、フィーリングを十分に味わうことができます。
■パワフルな発進時の加速
軽トラは、加速性能も意外とパワフル。重い荷物を積んでも巡航速度まで無理なく加速できるよう、また、上り坂や悪路など負荷がかかるような場面でも十分に走れるよう、ギヤ比は低く、かつクロスレシオに設定されているからです。車重も軽く、たとえば同じハイゼットでもワンボックスの「カーゴ」だと950kg(スペシャル・4WD・5MT)であるのに対し、トラックはわずか810kg(スタンダード・4WD・5MT)しかありません。
決してスポーツカーのような爆発的な加速ではないものの、クロスレシオのトランスミッションで十分パワフルかつ軽快です。マニュアルトランスミッションならシフト操作が忙しく、かつシート下のエンジンが盛大に唸るので自然と気分が盛り上がります。これは極限まで内装材を剥がして無駄を省いた、レーシングカーの要素とも共通する部分です。
また、軽トラは「軽規格」であることから、普通の小型以上のトラックと比較して、狭いところでも小回りがきいて扱いやすく、トラックよりも燃費性能はよいです。
このように、軽トラは、頑丈で耐久性のあるシャシーと軽快な加速が可能なパワートレインを、軽量で扱いやすいサイズのボディにおさめた、という、まさに「クルマ好きが欲しい要素が満載されている」クルマなのです。
■かつては「農道のポルシェ」とよばれたモデルも
残念ながら、現在は生産終了となってしまったスバルの軽トラ「サンバー」(現在はダイハツのOEM供給により販売を継続)は、水冷直列4気筒エンジンに4輪独立懸架方式のサスペンション、リアエンジン・リア駆動、パートタイム式4WDという現在の軽トラには見られないこだわりのメカニズムで「農道のポルシェ」という異名を持ち、高い人気を誇った一台でした。
筆者も昔、このサンバーに仕事で乗ったことがありますが、4気筒エンジン特有の滑らかな加速感やRRレイアウトの前後重量バランスから来る軽快なハンドリングが非常に楽しく、スポーツカーの資質を感じたのをよく覚えています。生産終了から10年近くが経過した今でも中古車市場では高値で取引され、高い人気があるようです。
今年の4月にホンダの「アクティ」が生産終了となったため、現在新車で買える軽トラはダイハツ「ハイゼット」とスズキ「キャリィ」の2モデルのみ。トヨタや日産、マツダなど他メーカーで販売されている軽トラは、すべてこの2種類のどちらかのOEMとなります。
様々なメーカーがライバル同士競い合っていた時代からすると、かなり寂しいラインアップではありますが、キャビンが広く座席もリクライニングできる「ハイゼットジャンボ」や「スーパーキャリィ」のラインアップ、オレンジやカーキといった個性的なボディカラーの設定など、ビジネス以外でも使いたくなるようなバリエーションで市場を盛り上げています。
シンプルで機能に特化した設計が求められる軽トラ。その機能性がスポーツカーとしての資質を生み出しているといえます。運転できる方はぜひ一度、マニュアルの軽トラに乗ってみてください。やみつきになりそうなほど楽しいですよ。
Text:Tachibana Kazunori
Photo:DAIHATSU,SUZUKI,SUBARU
Edit:Takashi Ogiyama