
第3回目の舞台となる洋品店があるのは、大江戸線新御徒町駅からほど近くにある佐竹商店街。江戸時代中期からの歴史を誇る、日本で2番目に古い商店街……なのですが、皆さん知らないでしょう?
そう、こちらは第二次世界大戦前は浅草に匹敵する繁栄を誇ったものの、その後衰退。いっときは〝シャッター商店街〟の代名詞的存在になってしまった、モヤモヤスポット(©️モヤモヤさま〜ず)なのです!
しかし現在歩いてみるとそれほど寒々しくはなく、むしろ心温まるバイブスをそこかしこに感じる、絶好の散歩コースであることに気づかされます。その理由はズバリ言って、チェーン店がほとんどないこと! この商店街はスターバックスをはじめとする大手資本に相手にされなかったがゆえに、いまだ個人商店による牧歌的ビジネスが通用する、奇跡のエアポケットなのです! フォーエバー佐竹商店街!

さて、そんな商店街のアーケードを10分程度歩いた先に、本日のお目当てとなる、小さくて古びたお店「ベッシィロス」はあります。……ファッ!? そこには、バイクを知る人なら二度見必至の光景が。なんと〝バイク界のフェラーリ〟〝走る宝石〟と称される名車「MVアグスタ」を、物干しがわりに使っているのです!

この衝撃の光景を前に、キケンを感じたあなた、正解です。しかし、そこで「やっぱ入るのやめとこ」と踵を返してしまうのはもったないない。「ベッシィロス」こと「ベシロス」は確かに小さいし古いしクセは強めですが、最強のディープスポット……いわば底が丸見えの底なし沼なのですから!

その隠しきれない〝クセ強〟の発生源となっているのが、店主の鈴木正さん。「格好よさげに切り取ったり盛らない」ことを条件に取材を許可してくれたことからも、タダモノではないことがわかります。そのココロは、「一部を切り取ったきれいな写真や、盛りすぎた美辞麗句に踊らされて訪れたお客さんに悪いから」。だから今回は、素敵なところもそうでないところも、ありのままを見ていただきたい!
アメリカの片田舎にある洋品店を彷彿させる古びた店内で、折り畳み傘や形態安定シャツが並べられた様子を見ると、思わず「失礼しました〜」となりそうですが、まずは落ち着いて、一点一点の商品をチェックしてみてください。そこにはアレ!? と目を疑うばかりのお宝が眠っているのです!

UCLAモノのウインドブレーカー、メイドインUSAのチノパンやジーンズ、SEROのボタンダウンシャツといった超定番のアメカジ名品の数々。1980〜90年代に一世を風靡した、メイソンズなどのイタカジアイテム。加えてなにげにテラソンに代表される、新興ブランドのジーンズやチノパンなどがミックスされたその構成は、街の洋品店の領域をはるかに超越しているじゃないか……。鈴木さん、いったいあなたはナニモノなんですか?

じっくりと聞いてみたところ、鈴木さんと「ベッシィロス」の歴史は、なかなかに深いものがありました。その創業は1976年。「ビームス」「ポパイ」「こち亀」、そして僕と同い歳! アメリカに憧れてやまなかった鈴木青年が、ツテを頼りに渡米し、本場のアメカジアイテムを買い付けたのがその始まり。特にUCLA(カリフォルニア大学)生協のオリジナルアイテムに強かったことから、STUDENT STOREと銘打ったというわけです。ちなみに店名の「BESSY ROSS」は、アメリカの星条旗をつくったと伝えられている女性、BETSY ROSSから名付けたのだとか。綴りが微妙に違っているところはご愛嬌ね。要するに「ベッシィロス」と鈴木さんは、日本におけるシティボーイカルチャーの先駆者だったのです!

一見ラフな鈴木さんの装いも、よーく見ると達人の域。だってアンティーク風の時計なんて、実はフランクミュラーのボーイズサイズ。深い、深すぎる……! なんて褒めすぎたら、鈴木さんに怒られるかな……!?

というわけで、UCLAのロゴ入りウインドブレーカーやら、「ベッシィロス」オリジナルのボディに当時モノのワッペンをつけたジャンパーなど、通好みの名品をガシガシ試着&購入した次第。あまりに興奮してしまったもので、佐竹商店街の喫茶店「ロッキー」で、しばしのチルアウトが必要だったとさ。

〝至高の名店〟とか大げさなことは言いませんが、掘れば掘るほど味わい深い「ベッシィロス」こと「ベシロス」。ちょっとクセ強ですが、本当は優しい鈴木さんが迎えてくれます。下町散歩のついでにでも、ぜひ寄ってみてください!
ベッシィロス
東京都台東区台東3-1
03-3831-3194
営業時間はお問い合わせください
定休日 水曜日
Text:Eisuke Yamashita
Video:Yoshihide Shoshima
Edit:Takashi Ogiyama