とある休日、ニットではくつろぎ過ぎで、スーツにタイドアップでは堅苦しい、しかし少々かしこまった場へ行くときには、シャツが便利です。なかでも私は、ブルックス ブラザーズのオックスフォードシャツを選びます。襟にボタンのついたポロカラー、いわゆるボタンダウンです。ニットほどリラックスし過ぎず、ドレスシャツほどドレッシーすぎない。ほどよいのです。

時は1896年、ボタンダウンシャツを初めて世に送り出したのがブルックス ブラザーズです。

当時、アメリカ男性における最高峰が同ブランドであり、ここが世に送り出すアイテムのほとんどがアメリカン・スタンダードとして受け入れられました。3ボタンジャケットの一番上ボタン部の下襟が返った、オーダーメイドが主流の時代に既製スーツを広めた、サックスーツ。
英国のレジメンタルストライプの傾斜方向を変えたナンバーワン・ストライプなどがその代表であり、それらは英国のクラシックスタイルにアレンジを加えたものですが、今なお現役で販売されています。

1818年に創業したブルックス ブラザーズは、ご存じのとおり、アメリカ本国では2020年7月に経営破綻してしまいました。しかし、ここ日本ではダイドーリミテッドが日本法人を子会社化して、ブランドの存続に努めています。

made in USA製品への情熱とオタク的視点をもつ日本の企業の傘下になったことで、これまで以上に僕たちが求めていたブルックス ブラザーズが手に入りやすくなったのはうれしいことです。その証拠に、現在販売されているポロカラーシャツは、なんとmade in USAなのです。
閑話休題。
いまや世界中で定番のファッションアイテムとなっている、ボタンダウンのシャツ。ブルックス ブラザーズでは「ポロカラーシャツ」と呼ぶ、このスタイルのはじまりは、創業者の孫ジョン・E・ブルックスによる、ちょっとした発見にありました。

それは、英国でポロの試合を楽しんでいたときのこと。選手の一挙一動を追う彼の視線が、ふと、ある一点に注がれました。視線の先には、選手の襟。ポロ競技専用にデザインされたユニフォームの、その柔らかな襟は、試合中に風にあおられてプレーの邪魔にならないようボタンで留められているものを見つけたのでした。
さっそく、ニューヨークにあるブルックス ブラザーズの工場にそのアイディアを持ち帰りました。のちに、デニムパンツとならび米国の服飾史上もっとも模倣されたともいわれるスタイルは、こうして生まれたのでした。もはや定番中の定番となっているため、これがどれほど革新的なものであったかは、いまではちょっと想像しづらいかもしれません。しかし100年以上の時を経ても、古くなることなく愛されつづけているという事実だけでも、その「ささいな思いつき」の価値を表すには十分といえるのではないでしょうか。

オックスフォードの生地というのもポイントです。ビジネスで着るシャツの生地は、ポプリンやブロードという織り方が定番です。これらは同じ太さの経糸と横糸を平織りで仕上げていきます。薄手のものが多く、ほのかな光沢感が特徴です。
一方、オックスフォードも同じ平織りですが、経糸と横糸を二本ずつ織っていくので、ポプリンやブロードに比べて厚手になります。が、ほのかな光沢も備えているので、耐久性とともに上品な見た目も兼備しています。だから、ビジネスでの着用もいとわないのです。
サイズ選びは、ドレスシャツ同様に首回りを基本に、袖、身幅、裾丈をチェック。ただし、一番上のボタンは留めずに着用するというならば、袖と身幅で決めるのもいいでしょう。とくに、首回りで選んだ結果、袖がだぶだぶとなってしまうのはいただけません。体に合っていないものを着ているのはシャツに限らず清潔感を損ねます。
■着こなし方
裾は長めなのでパンツの中に入れるのが基本です。もし出すのであれば、前ボタンを全部開けるのがいいでしょう。が、いかんせん着丈が長いので、よっぽど背が高くスタイルのいい人しか似合わないでしょう。

オリジナルのポロカラーシャツをモダンにした細身で着丈の短いタイプも世に出回っていますが、高価なものが多く、費用対効果のバランスが割るように感じます。休日用のシャツに3万円を出せるのなら止めませんが。一方、ファストファッションでもそのようなシャツがありますが、生地の耐久性が低く、また襟をはじめ型崩れしやすいので安さに飛びつくと結局損をしてしまうでしょう。ブルックス ブラザーズの襟は美しいロールがあり、首元を豊かな表情にします。

色柄のバリエーションはたくさんありますが、私は水色をおすすめします。白もいいのですが、せっかくの休日気分を盛り上げるには白よりも水色の方がいいと考えます。ならば、ピンクやイエロー、はたまたストライプなんかもいいのでは? と思うかもしれませんが、大人の男が着るにはちょっと浮かれ過ぎかな、と。それらの色柄を選べば、その分、他のアイテムの合わせにも計算が必要です。男のおしゃれ不要論。いろいろ試せばリスクが大きく、コストもかさみます。

水色のポロカラーシャツを同系色、つまりブルー系の定番アイテムでまとめれば清潔感と、洗練された雰囲気でまとめられます。同系色の定番アイテムとは、デニムのパンツであり、ネイビーのニットです。デニムもニットも表面がざらっとしていて、オックスフォード地と相性がいいのもポイントです。
ニットをグレーに、パンツもグレーのウールパンツにすれば、くつろいだ表情とともに、上品さが増します。この場合、ネイビーのニットもありですが、高校生の服装にも見えてしまうので、ニットとパンツは上質なウールまたはシルクやカシミア混を選ぶ必要があるでしょう。
水色と同じ淡い色合いのコットン素材という点で、ベージュのコットンパンツやカーキのアーミーパンツにも合います。カジュアルさを増したいならジージャンやレザーブルゾンを、上品さを増したいならハイゲージのカーディガンやネイビーのジャケットがいいでしょう。
いずれにせよ、このポロカラーシャツはカジュアルにも、ドレッシーにも振れる着回し力の高いアイテムです。新品のパリッとした風合いからなじませていく過程も楽しいですし、古着屋にも多く流通しているので、こなれたものをサイズ違いで、手ごろな価格で手に入れるのもおすすめです。
Photo:Ryouichi Onda
Styling:Takahiro Takashio
Text:Takashi Ogiyama
【お問い合わせ】
ブルックス ブラザーズ ジャパン
0120-02-1818