夏はTシャツやポロシャツだけで事足りますが、それ以外の季節はコートが必要です。とはいえ、Tシャツやポロシャツの上に直接コートを羽織るだけでは寒さはしのげません。その中間のインナーが必要です。スウェットやフリースも便利ですが、ちょっとくだけすぎた印象を与えます。楽ですが品が欠けるのです。そんなときにニットが最適なのはいうまでもありません。

毛編物、つまりニットは英国物に限る、と私は考えています。この地ほど羊牧の歴史をもつところはなく、同時に毛編物への歴史も深い。もちろん、羊の飼育ではニュージーランドやオーストラリアといったオセアニアが世界一ですが、羊毛を糸にし、それを編み込むノウハウは英国が世界一でしょう。

イタリアのニットも素晴らしいのですが、耐久性で英国の物に劣ることが多いです。イタリアンニットは、買った当初の発色や着心地は素晴らしいのですが、色が褪せやすく、型崩れしやすいように思います。ファストファッションのニットはすぐに毛が抜けたり、縮んだりする傾向にあります。
一方、英国ニットというとチクチクしたり、重い着心地のものが多いのも事実。しかし、私がこれまで何枚も買ってきたジョンスメドレーのニットは、着心地よく、耐久性に優れています。長いものは20年以上も現役です。

ところで、私はなんでも水洗いしてしまいます。あまりおすすめしませんが、水洗いは当然ドライクリーニングでは成しえないほどきれいになります。シミやホコリが除去され、そのもの自体とともに私の心まですっきりします。

ただし、もろ刃の剣であり、伸びたり縮んだり、破れてしまったりすることもあります。しかし、ジョンスメドレーのメリノウールニットでそんな失敗はありません。あ、ただし一度だけ真っ白なメリノウールニットを漂白剤につけたら、まだらな茶色になってしまったことはあります。泣く泣く処分しました(後日、同じものを買いなおしました)。
が、普通の洗剤で洗ったものでは失敗は皆無。天然の油分をたっぷり含んだニュージランド産のウールを丁寧に編み込んだニット製品だからこそ、私のように手荒く扱ってもへこたれないのでしょう。

ニットにはゲージといって編み目の細かさを表す単位があります。数字が大きくなるほどに編み目が細かくなり、薄手になります。私の愛用するジョンスメドレーは30ゲージ。いわゆるハイゲージと呼ばれる部類に入ります。
ニットの下に着たものは透けず、ジャケットやコートを羽織ってもごわごわとした煩わしさを感じさせない厚みです。だから真夏以外は年中使えます。価格は3万円ほどと世にあまたあるウールニットとしては高価ですが、着られる期間を考えると元は必ず取れます。

ジョンスメドレーのメリノウールは、ニュージーランドの羊の毛を使っています。南島の山岳地方にある牧場と契約を結び、そこでは自生するハーブを餌として、羊たちはすくすくと育っています。山岳地で育った羊は保温のため、良質な毛を生やします。また、冬には平地に移動させることで栄養を蓄えさせることも忘れません。そこから取られた羊毛は、クリンプと呼ばれるうねりがあり、弾力性、シワ回復力、適度なストレッチ性に富み、美しい光沢を放ちます。
ニュージーランドは世界有数の羊毛産出国ですが、メリノウールは全体のわずか5%しかとれません。とても貴重な羊毛なのです。ジョンスメドレーと契約している羊牧場の人々は、羊一頭一頭に名前をつけるほど大切に育てているほどですから他のウールニットと比べて高価なのもうなずけます。しかし、長く着られる耐久性や不変のデザインをかんがみれば、コストパフォーマンスは高い。その着心地や着回し力も考慮に入れれば、お得だとさえいえましょう。

手に入れるべきは30ゲージのクルーネックまたはハイネック、色はグレーまたはネイビー、といったところでしょう。これらをおすすめする理由は、ビジネスでも着られる一方、デニムにも似合うので費用対効果が高い点が挙げられます。

すでにお持ちの方には、ポロシャツやカーディガンもおすすめです。とにかく汎用性に優れます。
■ジョンスメドレーの着こなし方
それでは具体的にジョンスメドレーの30ゲージ・メリノウールニットの着こなしを考えてみます。このニットは毛を編んでいますから当然、表面は毛羽立ちがあります。しかし、いわゆるローゲージの表面よりはツルっとしています。その素材感をまずは頭に入れましょう。

つまり、コーデュロイやデニム、ツイード、フランネルといった表面に表情の強いパンツと相性がいい一方で、チノパンやスーツに使われるようなサラっとした表情のパンツにも似合うということなのです。合わせるパンツを選ばない、ということはそれだけ着る機会が増えます。

初期投資はそれなりでも数多く使えるので、価格÷着用回数を考えると元は取れるという算段が成立します。同じようなものでファストファッションやデザイナーズブランドのものもありますが、それらは原毛、糸、編み込み、いずれもジョンスメドレーにはおよばず、すぐに毛玉や型崩れを起こしてしまうでしょう。つまり、着用回数が伸びないということです。

色は他のアイテム同様、ネイビーかグレーがベスト。グレーは着用する季節柄、チャコールのような濃いものの方が使い勝手がいいです。ネイビーとチャコールは合わせる色を選ばないので、つまりどんな色にも似合います。
しかも、清潔感や誠実さを示す色なのもいい。民放局の男性アナウンサーは、グリーンやスカイブルー、ピンクのVネックニットをジャケットに合わせていたりするのをよく見ますが、あれは20歳代しか似合いません。フレッシュさをアピールするに終始してしまいます。

もし、それらの色を使うのであれば、もっと毛羽立ちのあるミドルやローゲージのケーブルやシャギーといった野趣味の強い素材感で、フレッシュさを中和する必要があるでしょう。
ともあれ、あれこれ考える時間があれば企画書を精査したり、家族やパートナーへ思いを馳せる方が賢明。最少時間で最大の効果を得られる30ゲージのクルーネックまたはハイネックの、ネイビーまたはグレーを着ることをおすすめします。
Photo:Ryouichi Onda
Styling:Takahiro Takashio
Text:Takashi Ogiyama
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