2016年、2017年、そして2019年と、国内販売台数1位を獲得してきた、トヨタプリウス。昨今のクルマにおいて、ハイブリッドエンジン車は、もはや珍しくない中で、なぜプリウスは、これほどまでに支持されてきたのでしょうか。
こちらは自販連の発表による、ここ数年のプリウスの国内販売台数(登録者台数ラインキング)。
2015年:12万7403台(2位)
2016年:24万8258台(1位)
2017年:16万0912台(1位)
2018年:11万5462台(1位)
2019年:12万5587台(1位)
2020年:6万7297台(12位)
今回は、プリウスの長所について考えていくとともに、短所について、そして、プリウスの現状と今後についても、考えていこうと思います。
■「低燃費なクルマ」というだけでなく、クルマとしての完成度が高い
やはりプリウス最大の魅力は「低燃費」です。プリウスのガソリンタンクの容量は43リットル、カタログ燃費がWLTCモードで30.8km/L(S 2WD)ですから、甘めにみても、1度の給油で約1000㎞は走行可能。燃料もレギュラーガソリンと経済的。加えて、街乗りから高速走行まで必要十分な動力性能をもち、静粛性も高いクルマです。
エクステリアデザインも、現行である50系の前期のデザインは、ちょっと吊り目で、好き嫌いが別れた仕上がりでしたが、デビュー翌年の2016年に、当モデルがヒットしていたことを考えると、案外、デザインは受け入れられていたのかもしれません。2018年のマイチェンでフェイスリフトを行ったことで、万人受けするデザインになったと、よく言われています。
また、「アースコンシャスな人」という良いイメージが手軽に手に入る、ということも、プリウスの魅力です。先進的なイメージがあり、環境性能も高く、地球環境のことを考えた行動ができる賢い人。プリウスを買えば、こうしたステータスが簡単に手に入る、ということもありました。
そして、もう一つが「安心感」。あまりにも皆が買っているので、とりあえずプリウスを買っておけば間違いない、という心理が働く、ということもあったと思われます。まさに、「売れれば売れるほど売れる」というスパイラルに入っていたのでしょう。
低燃費ながら走行性能が良く、ステータス性もある。また、大人5名がしっかりと乗れるボディサイズで、使い勝手の良いパッケージング。プリウスがただ低燃費なクルマ、というだけだったら、これほどまでに支持されることはなかったでしょう。プリウスは、クルマとしての完成度が非常に高いクルマなのです。
■「根拠のないレッテル」が非常に悔しいところ
日本市場にあわせたコンセプトで、顧客の方を向き、随時改良を加えて、クルマとしての完成度をどんどん上げているプリウスに、筆者からみて、クルマとしての短所は見当たりません。
唯一あるとすれば、根拠のないレッテルでしょう。ひとたびプリウスが絡む交通事故や交通違反がおきると、テレビのニュースやネットメディア、SNSによって、「プリウスミサイル」、「本日のプリウス」なんていうハッシュタグとともに、取り上げられてしまいます。
筆者は「プリウスミサイル」(※シフトがNの状態でアクセルを踏み、シフトをDに入れると急発進する)の再現実験に立ち会ったことがあります。30系プリウスにて、Nレンジの状態でアクセルペダルを踏むと、ピーという警告音とインパネに「Nレンジです」という画面表示が出ます。そのままアクセルペダルを踏み込んだ状態で、Dレンジに入れなおすと、たしかに急発進はできます。
しかし、この動作はプリウスに限った話ではなく、他のクルマでも同様の現象は起こります。「シフトポジションの分かりにくさがダメ」という指摘もありますが、メーター内には大きくシフトポジションが出ていますし、プリウスだけがもつ課題は見いだせない、というのが筆者の見解です。
■プリウスのいま、そして今後
そんなプリウスですが、2020年の登録車販売台数ランキングでは、なんと第12位と、トップ10すら逃してしまいました。現行の50系プリウスが登場したのは2015年12月ですから、すでに登場から5年以上が経っていることに加え、2020年は、ヤリスやライズなどの人気車の躍進があったことも影響したと考えられます。
世界初の量産ハイブリッド専用車として、「ハイブリッドを日常にする」といった役割を担ってきたプリウスですが、ハイブリッドが当たり前になった現在、ひょっとすると、その役割はすでに全うしたのかもしれません。役割を終えても、このままプリウスはプリウスのままでいくのか、それとも姿を消していくのか、はたまた新たな役割を担うのか、プリウスの今後が楽しみです。
Text:Kenichi Yoshikawa
Edit:Takashi Ogiyama
Photo:TOYOTA