料理芸人のクック井上。です!
“飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”
というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんがあります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れる連載コラム【洋食天国】。vol.11は、京橋『レストラン サカキ』にやって参りました。
創業は昭和26年(1951年)、現在は4代目店主・榊原大輔シェフが営む、来年で70周年の老舗店です。
ただ、こちらは単なる老舗洋食店ではありません……。昼は洋食店として、夜はフランス料理店として2つの顔を持ち、2014年には「ミシュランガイド東京ビブグルマン」にも輝いている名店なのです。
色々と、素敵なお話が伺える予感です♪
早速、お店にお邪魔しましょう。
と店内に入ると、すぐに目に入ってきたのがコチラ。
千葉県産の銘柄豚「林SPF」の取扱販売店指定証。
4代目店主・榊原大輔シェフが、あらゆる豚を吟味して選び抜いた品種とのことで、こういう素材・食材と真摯に向き合っていらっしゃる姿勢に触れ、背筋もピンと伸びる思いです。
さて、今回のお目当ては、噂の豚肉を使った「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」! 昼営業が始まって、早い時は5分で売り切れるという、1日限定20食の人気メニューです。
今回も、調理工程を拝見させて頂くべく、キッチンに潜入できることになりました。
と、早速登場したのが「林SPF」のロース!
1人分、ぶ厚く2cm程に切り出していきます!
“ポークジンジャーには、脂身が多い左側(リブロース)しか使いません。焼いて脂を落とす調理に適しているんです。右側は、ポークカツなどに使います”と、4代目店主・榊原大輔シェフ。
同じロースでも、その中の部位ごとにお料理を分けているとは……益々期待が高まります。
さて、「林SPF」のロースに、軽く下味と強力粉を纏わせてソテーしていきます。表面を焼く前に、立てて外側の脂の部分を焼き、余分な脂を落とすとともに、カリッと焦げ目をつけていきます。
と、小鍋が置かれているのは直火ではなく鉄板の上。
丸い部分が強火で、ずらすと中火→弱火にできる鉄板。フランス料理では、結構メジャーなんだとか。
微妙に小鍋をずらしながら、肉質が硬くならぬよう両面を焼いていきます。
そこに、醤油・酒・みりん・しょうが・玉ねぎ・にんにく・鷹の爪などを独自の配合で混ぜた、お店特製&純和風ポークジンジャーソースが注ぎ込まれます。
と、その瞬間にキッチンに立ち込める幸せの香りたるや…、いやもう、この芳香剤を売り出して欲しいーーーっ♪
取り乱しましたが、実況に戻ります。
ここからは小鍋を弱火のゾーンにずらし、ゆっくりとソースを煮詰めて、絡めていきます。
嗚呼、素敵な琥珀色だ……ジュルり。つけ添えのもやし・マッシュポテトを皿に盛り、そこにソテーした豚肉をドーンとON!
そろそろ、その時が来たようです。(スタスタスタ……足早に席に戻る。)
そして、やってきました、1日限定20食の人気メニュー「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」!
ド迫力、でっかいポークジンジャーは、なんと約300gもあるらしいです。
いざ、入刀! 見るからに美味しそうな、外側の脂身を含む部分にナイフを……
おー! ぶ厚いけど、ナイフが驚くほどスーっと入っていく。これは、しっとり柔らかに仕上げられている証拠ですね!
それではいただきます。
舌に少し濃い目の、爽やか且つ甘じょっぱいポークジャンジャーソースを感じ、噛めばサラッとした上質な脂がジュワッと口の中に拡がり、その後、赤身の部分の旨味が溢れて追いかけてくる。
口の中はもう楽園!
ポークジンジャー→ご飯→ポークジンジャー→ご飯……
完全に、ご飯泥棒オブザイヤー受賞!
今、僕がかかっている病に名前を付けるなら、急性ポークジンジャー中毒! もうこのポークジンジャーに溺れている状態。
食べる……たまに、フォーク休めにもやし・マッシュポテト・スープに手を伸ばし……
また、一心不乱に食べる……
ご飯とポークジンジャーの食べ進め具合のバランスを測ろうとしても、ポークジンジャーが大きすぎて、ご飯の減りの方が早い幸せ。
だから、いつものふた口分をひと口で頬張る!
脂が全くしつこくない、そして少し時間が経っても肉が全然硬くならない。これは、4代目店主・榊原大輔シェフの確かな腕×「林SPF」のポテンシャルの成せる業だ。
単なる、超人気ご飯泥棒の激旨ランチを味わうという事象を遥かに超えて、素材の豚そのものにも興味が湧いてくる一皿だ。
と、そんなことに思いを馳せながら食べ進めていたら、いつのまにか最後の一切れ……と言っても通常の3口分ですが、最後は口いっぱいに、一気にいただきます!
僕は今、猛烈に感動している(涙)。今回、僕はランチを味わったのではなく、とても贅沢で有意義な時間を味わったのかもしれない……。
もう、何が何だかわからない程、「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」は別格で、そりゃ5分で売り切れるわ……。
っていうか、これ本当に1400円でいいんですか? 2400円じゃなくて? 異次元やで! 早くお話を聞こう、完全にただ者ではない、4代目店主・榊原大輔シェフに!
京橋サカキ四代目に歴史と味の秘訣をうかがう
── お店の成り立ち、歴史を教えてください。
榊原大輔シェフ 私の曾祖父ちゃんが、甘味処としてお店を創業しました。ですが、若くして亡くなり、実際は曾祖母ちゃんが、お店を切り盛りしていました。その後、祖父が業態を洋食店に変更し、『レストラン サカキ』が誕生しました。
── 2代目の祖父様は、どちらで修行されたんですか?
榊原大輔シェフ 2代目の祖父も3代目の父も、料理人ではなく、料理人を雇って自身はホールを担当し、経営をしていました。子どもの頃から、父や祖父が働く姿や料理人さんの姿を見ていて“自分は、オーナーシェフになりたい!”と考えるようになりました。
── お父様や祖父様のように、経営者ではなく“オーナーシェフになりたい!”と考えるようになったのは何故ですか?
榊原大輔シェフ 祖父・父の時代は、雇っている料理人さんが辞めることもあったわけですが、そうするとお店の味を守るのって大変なんです。その点、自分がオーナーシェフなら、味にブレも出ない。食べることも好きだったので、お店を継ぐことにしました。
── 人任せにせず、自分で鍋を振る! とても考え方がシンプルで行動派ですね。どちらで修行されたんですか?
榊原大輔シェフ まず、高校を卒業してからすぐに料理の専門学校の、フランス校に留学するコースに入学しました。半年間、フランス・リヨンの学校に通い、さらに半年間、実際にフランスの南仏プロヴァンス地方のレストラン「ボーマニエール」で働きながら、伝統的なフランス料理を学びました。その後、帰国してからは四谷『北島亭』で4年半修行し、また渡仏しました。
── 再び、フランスに渡られた理由は何ですか?
榊原大輔シェフ 最初に行った時に、1年と短かったので、もう少し突っ込んで勉強したいと思い、約4年で4店舗ほど周り、フランス料理の修業をしました。
── フランス料理をかなり学ばれた榊原シェフが、4代目として継ごうと決心したきっかけは何だったんでしょうか?
榊原大輔シェフ ある時、『レストラン サカキ』の料理長が辞めるというタイミングがありまして、父とも話し合い、お店を継ぐことにしました。ただ、ここはオフィス街なので、ランチはフランス料理だと難しいと思い、“ランチは洋食、夜はフランス料理”というアイデアが沸いたんです。そうすれば、今までの洋食の精神も継ぐことができると考えました。
── 凄く良いアイデアだと思います! フランス料理も洋食も、両方を知る榊原シェフですが、それら2つの共通点や感じることはありますか?
榊原大輔シェフ フランスには、洋食のデミグラスソースのようなものはあんまりないんですが、フランス人が口にしても美味しいと思いますし、世界にもウケると思います。洋食の味を、日本だけで味わえるものにしておくのは勿体ないと感じています。実際、お店で出していた洋食を知人のフランス人に出してみたら“美味しい!”と言いますし。美味しいものっていうのは、国とか関係ないと思います。
── “美味しいものに国境無し”ですね。今日食べた「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」、衝撃的に美味しかったです。いつ頃からのメニューなんですか?
榊原大輔シェフ こちらは、私の代からのメニューです。お料理を考えた時、ロースの右半分はポークカツレツにし、脂身の多い左側のリブロースを活かせるお料理は何にしようかと考えて、誕生しました。ただ、昔からのお客さんは、うちは揚げ物のイメージが強かったようで、最初は全然出なかった。しかし、少しずつ口コミで拡まっていきました。4人で来たお客さんのうち、1人が頼むと他の3人が興味を持ってくれて、次に来た時には残りの方もポークジンジャーを頼むようになり、それがどんどん増えていき、いつしか人気メニューになりました。
── みんなが釘付けになって、ハマる理由が分かります。異次元なお得感でした。
榊原大輔シェフ 何か宣伝になるメニューがあると強いと思っていたので、嬉しい評価です。新型コロナ以降は、「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」の真空パックの冷凍テイクアウトもご用意していて、“家族にも食べさせたいから!”というお客さんがたくさんいらっしゃって、とても好評です。
── わぁ、5分で売り切れる限定メニューがテイクアウトで! 買って帰れば、家族のヒーローになれて会話が増えますね! 家ではどのように調理すればよいですか?
榊原大輔シェフ 冷蔵庫で自然解凍して頂いて、80℃くらいのお湯で湯煎していただくだけで、とてもしっとり柔らかに食べていただけるようにしています。食感もお店とそう変わらないと思います。
── ランチで食べて最高、テイクアウトでお家で最高ですね! 今後の展望などありますか?
榊原大輔シェフ 今は、このコロナを乗り越えることが第一ですね。お客さんが、前のレベルで戻ってきた時に、以前と変わらないクオリティでお出しできるよう、頑張るだけです。
ということで、『レストラン サカキ』4代目店主・榊原大輔シェフに色々お話を伺うことができました。本場フランスの有名店で修業をし、その腕を携えて家業の洋食『レストラン サカキ』を継いだ4代目店主・榊原大輔シェフ。
単に洋食店として継ぐのではなく、昼は洋食店→夜はフランス料理店という“ハイブリッド店”として、18年前の26歳の時にリニューアルオープンしました。夜のメニューはもちろん、昼のランチメニューも、それまでの『レストラン サカキ』の味に縛られることなく進化させ、その時に生まれたランチの看板メニュー「千葉県産 林SPF豚のポークジンジャー」は衝撃的な美味しさと満足感でした。
まだ口にしたことが無い方は、タイミングがあれば……いや是が非でも食べていただきたい逸品です。
4代目店主・榊原大輔シェフ、お忙しい中有難う御座いました
皆さんにも、「並んででも食べたい」「家族にも食べさせたい」そんな“思い出の洋食屋”があるのではないでしょうか? 日本人みんなの憧れの「洋食」という名の和食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。巡って、その想いや歴史、人や町に触れたいと思います。
レストラン サカキ
東京都中央区京橋2-12-12サカキビル1F
03-3561-9676
営業時間 平日昼 (洋食)11:30~13:40 (L.O) 、土曜昼(フレンチ)11:30~12:30(L.O) 、夜18:00~20:30 (L.O)
定休日 日曜・祭日・第二土曜日昼
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
Text:Cook Inoue
Photo:Takuji Onda
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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