絶滅危惧種「町の洋食」を救え!
料理芸人のクック井上。です!
‟飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”
というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんがあります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れる連載コラム【洋食天国】。
vol.7は、浅草『グリルグランド』にやって参りました。

創業は昭和16年(西暦1941年)、太平洋戦争が開戦し、真珠湾攻撃があった年です。
大変な最中でお店を開いて約80年…、中村勘三郎さんや若山富三郎さんら、名俳優たちも愛した『グリルグランド』の歴史を紐解きましょう。
本日は、現在厨房を仕切っている、三代目シェフ坂本良太郎さんが考案した人気メニュー、「特製オムライス」をオーダーする事に致しました。
今回も厨房にお邪魔させて頂き、極上の時間‟洋食調理風景見学”と参りましょう。
まずはオムライスの中身のご飯から調理。

リズミカルにフライパンが振られ、ご飯と具材が踊ります。
そこに、ケチャップで味付け。

見た感じ、コテコテの濃いケチャップ味ではなさそう。
そして、上に乗るのは、見るからにふんわり柔らかプルンプルンの卵!

一点の曇りもない卵に、少しナイフで切れ目を入れるだけで……

タンポポような花が咲きます。

嗚呼、誰もが笑顔になる絶景です。
ここに『グリルグランド』3代目シェフ坂本良太郎さんが、手塩にかけて育てた自慢のデミグラスソースがかけられます。
牛筋をしっかり焼きつけて、牛骨や香味野菜、たっぷりな赤ワインなどと共に1週間煮込んだものがコチラ。

一週間では、‟完成!”とはいかず、ここから更に1週間、昼は煮詰めて夜は寝かせてを繰り返す。
長い時間と愛情、手間暇をかけて、ようやく完成したデミグラスソースがこれだ!

美しい! 2週間の努力の結晶、こりゃたまりませんね!
あらゆるの食材の旨味が凝縮されたデミグラスソースを卵の周りにかけたら完成!

威風堂々「特製オムライス」、ここに見参です(私は厨房から急いでテーブルに戻り、お迎え)。
せっかくなので、温かトロトロのうちにスプーン入刀(?)しましょう。

卵にスプーンを入れて、中のチキンライスと共に持ち上げた時のドキドキ感、それを口に運ぶ時のワクワク感!
笑顔でいただきます。

口に入れた瞬間、苦み・酸味・甘味・旨味、そのバランスが絶妙なデミグラスソースと卵が、舌全体を包み込みます!
そして、卵の下のチキンライスと口の中で口内調味。

舌に纏ったデミグラスソース+ふんわり卵+懐かしく優しいケチャップ味のチキンライス=まさに洋食天国!
チキンライスのケチャップ味は、あくまで控え目。
得てして子ども味になりがちなチキンライスは、存在感のあるざく切り玉ねぎと強めのコショウが、味を引き締めてくれます。
食べ進めても、食べ進めても、全く飽きの来ない大人味のオムライス。
気付けば最後のひと口。

皿についたデミグラスソースも、出来る限りこそいでスプーンに収めて……。
ひと際ゆっくりと味わって……、ご馳走様でした。
三代目シェフに伺うグリルグランドの味の秘密とは
とここで、厨房から、三代目シェフ坂本良太郎さんがテーブルまで来てくださいました。
『特製オムライス』について、お伺いしてみたいと思います。

──「特製オムライス」のデミグラスソースのこだわりは何ですか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん 食べた後にすっきり感じる味、くどくないように作っています。
── 確かに、コクがあるのにくどくない、だからあとを引くんですね。大人な苦みも美味しかったです。
三代目シェフ・坂本良太郎さん 牛筋をしっかり焼きつけて、小麦粉もバターと共に焦がします。
── このオムライスの歴史はどれぐらいになるんですか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん フレンチとイタリアンで修行をし、2000年に『グリルグランド』に戻り、親父のあとを継ぎました。その時、「特製オムライス」を作りました。私があとを継ぐまでは、ケチャップがかかったオムライスだけでした。
── なぜ、新メニューとして「特製オムライス」を加えようと思ったんですか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん 元々は賄いメニューでしたが、これからはこういうのもあった方がいいと思い、加えました。親父には‟邪道だ!”と言われましたが(笑)。でも、昔ながらのケチャップのオムライスがあるからこそ、「特製オムライス」が活きるんだと思います。
── 先代へのリスペクトですね。「特製オムライス」以外に、“これぞ、お店自慢のお料理”というのは何ですか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん 「カニクリームコロッケ」、あと、何と言ってもうちは「ステーキ」がメインです。常連さんは、何人かで来られて、それらを召し上がってから〆でオムライスを食べる方が多いです。
── お店の名前が『グリルグランド』ですもんね! これは家族、または複数人で来て、コース仕立てで食べないとダメですね。
三代目シェフ・坂本良太郎さん はい、そうしていただくと、うちの魅力がより分かっていただけると思います。
── テーブルに、家族やおじいちゃんおばあちゃんと一緒に食事をするあったかい風景が浮かびます。浅草も少し活気が戻ってきましたか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん はい、少しずつ戻ってきました。でも、今年は三社祭が無かったのが悲しいですね。
── 三社祭では、御神輿は担がれるんですか?
三代目シェフ・坂本良太郎さん はい、担ぎます。‟稼ぎ時なのに”と言われますが、祭りの時はお店は完全に閉めて、御神輿に集中です(笑)
と、「特製オムライス」の誕生秘話と、流石の浅草っ子のエピソードをお伺いする事ができました。
ところで、『グリルグランド』は、今は兄弟で切り盛りされているそう。
三代目シェフ坂本良太郎さんは、夜営業の仕込みに戻られるという事で、良太郎さんの実兄・坂本昌一さんに、お店の歴史や想いなどをお伺いできました。

── お店は1941年(昭和16年)創業との事ですが、初代はどんな方だったんですか?
坂本昌一さん 元々、ホテルで修行をしていて、‟これからは浅草だ!”という事で、一念発起して『グリルグランド(元は‟西洋料理”グリルグランド)』を創業しました。
── 当時は、どんなお客様が中心だったんですか?
坂本昌一さん 当時は、この辺りには料亭が沢山あって、芸者さんをはじめ、そこへの仕出しが多かったようです。実は僕も弟も、小学生の頃はコックコートを着せられて、岡持ちを片手に仕出しをしてました。そうすると、料亭の女将さんがよくチップをくれたりして、そこで商いを覚えましたね(笑)。
── 芸者さん達には、どんなお料理が人気だったんですか?
坂本昌一さん お肉全盛の頃だったので、「牛ステーキ」「牛カツ」「ビーフシチュー」などが人気で、ほとんどのお客様がお肉。最後に〆でナポリタンやオムライスでしたね。昔から『グリルグランド』を知る、常連さんは肉三昧です。
── 3年前の2017年に『グリルグランド』に入ったとお聞きしました。その前は、お仕事は何をされていたんですか?
坂本昌一さん 僕は長男ですが、ずっとサラリーマンをやってきました。最終的には、経営の面で『グリルグランド』を支える修業として会社勤めしたつもりでした。しかし、入社して5年経って、まだまだ勉強しなければならない自分の未熟さに気付き、そのままサラリーマンを続けました。商品開発、マーケティング、マネジメントなどを経験していくうちに、辞めるに辞められず、気付けば25年経っていました(笑)。親父がまだまだ元気だったのと、弟が2000年にお店に入ってくれて、安心だったのもありますね。
──外からお店の行く末を見守られていたんですね。
坂本昌一さん はい。ところが、15年程前に、おふくろから‟厨房が大変だ。お店の一大事だ!”と連絡がありまして。父親も弟も職人気質なので、大げんかになったようです。結局、親父が ‟やれるもんならやってみろ!”と弟に言い放ち、その日を境に厨房に入らなくなり、弟があとを継ぎ、三代目シェフになりました。ただ、‟味を継承する”、‟味を進化させる”と言うのは簡単ではなく、弟もかなり大変だったようです。
── 外から見守られていたお兄様が、2017年に『グリルグランド』に入るきっかけは何だったんですか?
坂本昌一さん 2016年に親父が体調を少し崩したのがきっかけです。両親は70歳を超えていますし、あとから親孝行したいと思ってもできないので、後悔したくないと思いお店に入りました。あと同時に、弟孝行もしたかった。先ほども言った通り、弟は職人気質ですから、もし親父に何かあった時に、経営面で弟だけに負担をかけたくなかったんです。
── お兄様のサラリーマン時代の、商品開発やマーケティングの経験を活かして、弟さんを支えようとされたんですね。
坂本昌一さん はい。僕が入るまでは、お酒の種類も少なく、スパークリングワインも無かった。例えば、「特製オムライス」を目的に来られるお客様にも、本来のお肉料理が自慢の『グリルグランド』を知って貰いたかった。そこでお酒の種類を増やし、メニューの写真や説明文も変え、選択肢や楽しみ方の幅を広げたかった。弟は料理で、僕がサービスの面で『グリルグランド』の魅力をお客様に伝えたいと思っています。
── 兄弟の二人三脚、素敵です。今年の新型コロナの最中はいかがでしたか?
坂本昌一さん 今まではテイクアウトはやっていなかったんですが、弟と相談して決断し、テイクアウトも始めました。結果論ですが、コロナの前に僕が戻ってこれたのはタイミングが良かったし、兄弟で得意な事を発揮して、話し合って営んでいけるのは、『グリルグランド』の強みです。
── 弟さんとぶつかる事はありませんか?
坂本昌一さん 僕は、弟とは絶対に喧嘩しないと決めています。あと、僕は新参者ですから(笑)。
── 先代のお父様も、安心ですね。
坂本昌一さん はい、そう感じてくれていると思います。今は、弟の腕も認めていると思います。今でも親父は、揚げ物もお肉焼かせても、天下一品ですけどね。
お兄様からも、多くの想いや歴史をお伺いする事ができました。
せっかくなので、最後の記念撮影は二代目店主・坂本譲一さんにも入っていただきました。

ビシッとコックコートを纏ってお出ましです。
そして、お父様とお兄様と記念撮影の最中、良太郎さんは、既に夜の営業のご準備……。
弟さんはお料理の事、お兄様はお店のマネジメント。
お父様は、いざとなればいつでも現役復帰できる腕を携えつつ、それら全てを見守る役。

長いお店の歴史の中で、それぞれ色んな想いがありながらも、家族で認め合い、慈しみ合い、尊敬し合い、許容し合い、埋め合い、助け合い、そうして歴史を重ね続けている『グリルグランド』。
常連さん、観光客、あらゆるお客さんを魅了し続け、来年いよいよ80周年を迎えます。

この‟G”の額縁は、以前お店を訪れて、その味に感動した外国人のお客様から贈られたという、革製のお店のエンブレム。
フランス料理がルーツである『グリルグランド』のトリコロールは、先代とその子ども二人、三者三様の色の違いで織りなす、お店そのもののように見えました。
今回は「特製オムライス」をいただきましたが、次の訪店時は、『グリルグランド』の真骨頂である「牛ステーキ」を食べ、その〆にオムライスをいただきます。
コロッケグランプリ金賞受賞の「カニクリームコロッケ」も忘れずに!

『グリルグランド』の皆様、お忙しい中有難う御座いました。
皆さんにも、親子3代、4代で通いたくなるような、ほっこりする“思い出の洋食屋”があるのではないでしょうか?
日本人みんなの憧れの「洋食」という名の和食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。
巡って、その想いや歴史、人や町に触れたいと思います。

グリルグランド
東京都台東区浅草3-24-6
TEL 03-3874-2351
営業時間 ランチ火-土曜日11:30~13:45(L.O.)、ディナー火-土曜日17:00~20:30(L.O.)
定休日 日曜日、月曜日









Text:Cook Inoue
Photo:Riki Kashiwabara
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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