テレビ番組や経済雑誌の経営者インタビューや記者会見に臨むトップのスーツ姿を見ていると、会社の顔なのに無個性で味気なく、その着こなしから何のメッセージも発していないことに改めて驚く。まだ真っ赤なネクタイをしたトランプ大統領のパワースーツの方が饒舌だ。
ふと思い立って「経営者 スタイリング」のキーワードで検索してみると、ずばり経営者向けのパーソナルスタイリングを手がけるソッカコンサルティングのミサキ アキヒロ氏を見つけた。ホームページにある本人の着こなしも今の時代に適したコンフォート感が伝わってきて、取材を申し込んだ。
「非言語コミュニケーション」としてのスタイリングの重要性
『人は見た目が9割』という本がベストセラーになったのは約15年も前のこと。「見た目」とは、言葉以外の情報すべてで、今では見た目によって印象や好感度、会社での昇進、さらに恋愛まで大きく左右するのは周知の事実となっている。
「経営者パーソナルスタイリング」をスタートさせたパーソナルコンセプターでコンサルタントを務めるミサキ アキヒロ氏は、「リーダーは仕事が出来ればOKかというと意外にそうではありません。会社の規模に関わらず、従業員は実によく見ていて、どんなハンカチを持っているかから、爪やヘアスタイルの清潔感までトップを仔細にチェックしています」と言う。
自らも経営者としての経験を持ち、サラリーマン時代には営業から採用・人事、教育、営業企画まで様々なジャンルを管理職として経験したことが財産になっているというミサキ氏は、「私は無類の服好きですが、ファッションのプロではありません。経営コンサルタントという視点にファッションの切り口も取り入れて、ビジネスに効く経営者にふさわしいスタイリングを作り上げていきます」。
撮影協力/シップス 銀座店
ミサキ氏が、プロのスタイリストを否定する理由とは
――ミサキさんが「無類の服好き」というところにも興味を持ちましたが、ご自身でもかなり服に投資をしていますか。
ミサキ はい(笑)、これまで散財してきてたどり着いたモットーは、「値段の高い服や流行を追う服が良い服ではなく、良い服とは自分らしく自分に似合う服である」です。また、特にアンダーステートメントにこだわっているわけではないのですが、一目でブランド名がわかるような洋服やバッグなどはなるべく身に着けないようにしています。
――ホームページを拝見して面白かったのは、プロのスタイリストを否定していますよね。
ミサキ 否定ではありません。プロのスタイリストは、ファッションについて豊富な知識や経験をお持ちですから。しかし経営者が「ビジネスの業績を向上させたい」という目的で印象アップを目指す場合には、ビジネスの知見が不可欠だと思います。例えばスタイリストの方が、経営者にファッション誌から抜け出したようなスタイリングを行った場合、ビジネスの現場では、経営者の業種や状況によってはむしろマイナスのイメージを生むことがあります。
――マイナスのイメージを生むとは?
ミサキ 例えば食品関係の経営者が人前に出るなら、まず「清潔感」は不可欠ですね。流行だからモテ系スタイルで……だとギラギラし過ぎて不潔に映ることもあります。スタイリストが「ファッションのプロ」としてスタイリングを行うのに対して、私は「ビジネスのプロ」としての視点で経営者のスタイリングを捉えています。
――スタイリストとは違うということですか。
ミサキ そうですね。まず私は事前のヒアリングで、「ビジネス上で求める印象」を正確に把握します。そして私がすべてのスタイリングを決めるのではなく、店頭に立つファッションのプロであるお店の販売員の方の力を借りながら、ビジネスのプロとしてとしてのバランス感をプラスします。フィッティングなどは販売員の方の意見も味方にしてトータルで良いスタイルを作っていきます。その方がお客様も販売員の方も気分が良いですよね。
「経営者パーソナルスタイリング」を始めて分かったこと
――経営者や企業トップの「見た目」は本当に大切で、テレビを見ていて一部上場の大企業の経営陣の着こなしや風貌を見て、「えっ?」と思うこと(笑)がよくあります。ミサキさんが経営者のスタイリングを始めた理由を教えてください。
ミサキ これまで多くの経営者の方にお会いしてきましたが、業績が伸びている会社の経営者の印象はとても良いのに対して、業績が伸び悩んでいる会社の経営者の印象は、あまり良くないことを感じていました。始めのうちは「高業績」という理由が、「好印象」という結果につながっているのだと思っていたのですが、実は逆で、「好印象」という理由が、「高業績」という結果につながっているのではと気づいたのです。
――なるほど。面白い視点ですね。
ミサキ それはまだ実績のない創業間もない会社の経営者でも、この関係が当てはまることや、業績に直結する優秀な社員の採用や新規の取引といった場面で、経営者の印象が大きな影響があるということがわかりました。そこで、経営者の印象の鍵である「服装」に着目。経営者の印象を向上させることで、会社のイメージや業績をアップすることを目指す「経営者パーソナルスタイリング」のサービスを始めました。大切な経営者の印象を、「服装に興味がない」という理由だけで損なってしまうのはあまりにもったいないことです。
――具体的にどういう部分が“ダメ”なのでしょうか。
ミサキ まず着こなしの前に、令和時代の経営者がどうあるべきかを考えてみたいと思います。私は、これからの経営者は、経営者自身の「感性」がこれまで以上に求められる時代だと考えていて、その感性とは、様々な価値観を持つ従業員や取引先、お客様の心の機微を感じ取ることのできるしなやかさだと思います。そしてそれをしっかりと受け止めて、双方向のコミュニケーションによって課題を解決するリーダーシップが必要なのではないでしょうか。その観点から「経営者のスタイル」を考えると、従業員や取引先、お客様に対する「経営者からのメッセージ」として、会社のイメージや経営者の個性を魅力的に発信するものである必要があると思います。
――サービスを始めて、経営者からの反響はいかがですか。
ミサキ まず、「こういう世界があるんだ」と驚かれますね。スーツとそのスタイルの買い方を知らない方がとても多い。そういう人は、スーツを買いに行って、平然と「明後日に着るからすぐ直して欲しい」と(笑)。お店は対応するでしょうが、そういうお直しの感覚すらない男性が多いのも事実です。
経営者の印象がアップすることのメリットとは
――ミサキさんが考える「経営者のスタイル」の大切さはよく分かりましたが、そのメリットを教えてください。
ミサキ メリットを一言で言うなら、それは会社の業績がアップすることだと思います。例えば、日本経済を支えている中小企業は、深刻な「人材不足」に陥っています。最新のデータ(中小企業白書2019)によると、従業員299人以下の企業の大卒求人倍率は9.9倍となり、求人10人に対し就職希望者はわずか1人しかいないという危機的な状況となっています。
――新卒は売り手市場で、第二新卒も取り合いになっていると聞きます。
ミサキ そのような状況の中で、就職希望者にとって会社選びのポイントは、採用担当者など社内の人の印象を重視する傾向にあります。これは会社の実情を知るための貴重な情報ですから当然のことで、特に経営者の印象は、就職希望者にとって大きなインパクトを与えることは間違いありません。ですから経営者の印象は、会社のイメージを決定づけるものであり、その結果として印象の良い経営者は、就職希望者が少ない中でも優秀な社員の採用に成功し、そうでない経営者はうまくいかないということが起きてしまうのです。
――経営者に限らず、政治家や官僚も着こなしの印象で「仕事ができそう/ダメそう」が判断されますね。
ミサキ 経営者の印象をアップすることのメリットは、採用だけでなく、新規の取引先との契約交渉や従業員とのコミュニケーションなど、業績に直結する様々な場面においてプラスの影響があると思います。
パーソナルスタイリングの着眼点とこれからの経営者スタイル
――経営者のスタイリングを考える上で、特にこだわっているところは?
ミサキ スタイリングによって経営者にもっと輝いて欲しいというのと同時に、装うことを楽しんでいただきたいということですね。今の時代は、「VUCA」の時代(Volatility=不安定 Uncertainty=不確実 Complexity=複雑 Ambiguity=曖昧)などと言われ、先が読めない、どこか閉塞感のある不安な状態にあると思います。そんな雰囲気を吹き飛ばして、時代のムードや気分を変えていくのも経営者というリーダーの役割でもあると思います。
――具体的にはどういうスタイルですか。
ミサキ 私が、令和の時代の経営者スタイルとして最も注目しているのは、クラシックスタイルの復活です。クラシックスタイルは、伝統に裏づけされた格好良さがあるだけでなく、スーツを中心にシャツやネクタイ、靴などのコーディネートによって、幅広い着こなしが可能であり、経営者それぞれの求めるイメージを実現しやすいものです。もちろん現代では、会社の業種や経営者の個性によって、スーツではなくジャケットを活用するジャケパンスタイルの方がしっくりくるという場合もあるでしょう。当然ですが、ジャケパンスタイルも立派なクラシックスタイルですね。
――いわゆる「進化するクラシック」ということですね。
ミサキ 見た目はクラシックを踏襲しつつも、着心地は別次元の快適さを実現できれば、着る人を引き立て、豊かな表情を持つクラシックスタイルが、大いに好まれる状況が生まれてくると思います。FORZA STYLEの読者の皆さんは、ファッションに対して意識の高い方々だと思いますが、自分の会社の社長や経営陣、取引先の社長のファッションはどう見ていますか。ぜひ皆さんが先生となって、ファッションの力で令和の時代を明るくして盛り上げていきましょう!
Photo:Riki Kashiwabara
Text:Makoto Kajii
【撮影協力】
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socca consulting(ソッカコンサルティング)
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