FASHION ― 誰がアパレルを殺すのか

スーツやジャケットを着るように楽しむ「洋服生地の簡単着物」

2019.6.4 2019.6.4
2019.6.4

「伝統文化としてルールは必要ですが、もっと自由に普段着として着てほしい」

フォルツァ読者の皆さんはワードローブに「着物」はあるだろうか。自分は着物の仕事をした関係で羽織から帯までフルセット一式を持っているが、正直、歌舞伎座に納涼歌舞伎を観に行ったときぐらいしか着ていない。

もったいないとは思っているが、着物は「腰紐や羽織紐、長襦袢など“部品が多くて”着るのが手間」、「帯を一人で締めるのが難しい」、「洗濯・クリーニングも大変」という意識があって、手元にあるのになかなか手が出ない。

そんな着物のハードルをグッと下げてくれる“新感覚の着物”を提案する巧流合同会社を知り、4月にオープンしたばかりの清澄白河にある着物サロンに伺った。

「和裁士が提案する新しい着物」とは何か

「新しい着物への取り組みと着物の未来」に取り組む巧流合同会社のトップ2人は、兄の元山巧大さんが27歳、弟の元山誠也さんは25歳。二人のこれまでのキャリアや着物への思いはホームページ内の「元山兄弟」という項に詳しいが、彼らの祖父は着物縫製会社と和裁士訓練校を兼ねる和裁学院を設立し、全国和裁着装団体連合会13代会長に就任するなど和裁の進歩に精力を注いだという。

また、彼らの父は1級和裁技能士取得後に和裁学院を継いだが、年々着物を着る人が減少し、下請けである和裁士の報酬は減少。その結果、経営が困難になりすべての和裁学院を閉校してしまい、現在は縫製会社を新たに設立し、和裁士の国家検定の審査員をしながら、手縫いのみの伝統的な技法で着物を縫っているそうだ。

そんな着物業界と和裁士の血統を受け継いだ若き二人が目指すのは、「和裁の新しい文化の創出」。弟の誠也さんは、「僕らの根底には和裁士が仕事を続けられて、技術、感性共に進化していける環境作りとその育成があります。現在意匠権を出願している“誰でも1分で着られて、着崩れない着物”はそのプロセスの一環です」と言う。

兄の巧大さんは、バンドカラーのシャツの上にコーデュロイの着物を着て、誠也さんはTシャツとブルーのショールカラーの薄いジャケットの上にシアサッカーの着物を着て登場。共に「着物はルールが厳しそうというイメージが強く、伝統文化としてルールは必要ですが、もっと自由に普段着として着てほしい。私たちのように和洋折衷で、着物をジャケット感覚で好きなように楽しんでほしいです」と訴える。


兄の元山巧大さん(右)と、弟の元山誠也さん(左)
和洋折衷と上品な所作が周りをハッピーにする

――ブランド名の「巧流-call-【コール】」はどういう意味ですか。

巧大 人には思想、感情、価値など何事も流れがあります。それらの心の流れが世の中を大きく変えてきました。僕たちは先人たちが残してくれた日本の巧の技、知恵でその流れを創っていきたい。さらに現代の感性を併せ、その流れの中心に我々「巧流-call-」がありたいと思います。また、「巧」は職人である父の名であり、我々の芯には職人の持続可能性が目的であることを常に意識していきたいと思っています。

誠也 そういう私たちの思いを皆さんの心に呼びかけていきたいというのもありますね。

――さすがに着慣れた感じを受けますが、普段も着物ですか。

巧大 僕はこのまま飲みに行きます。もちろん目立ちますが、着物は正装でもあるので、悪目立ちはしません。「そんな着方をするんですね」とか、「何の仕事をされているんですか」、「革靴を履くんですね」などと声をかけられます。

誠也 自分も普段はほとんど着物で、「格好いいね」、「着てみたいな」と言われますね。僕たちの現状や将来の夢の話をすると応援してくださる方も多いです。

巧大 そういう話をしていく中で、興味がある人のための着方や着て行く場所などを見つけるのも仕事の一環です。

誠也 発信者としてモデルになって外に出ることで、コミュニケーションが増えていきます。実際、着物を着ているとモテますね(笑)。チラチラ見られるので、立ち振る舞いも気をつけるようになりました。

巧大 着ると余裕が生まれるので、駅のホームで走らなくなりました(笑)。周りに気を遣うことで、気持ちに張りも出ます。

誠也 どっしりと構えられて、自信もみなぎり、人生が豊かになる感じがあります。自然で上品な所作が周りをハッピーにしますね。


すべて洋服生地で仕立てられている試着用のサンプル
試着して口を揃えて言うのは、「着物ってこんなに楽なんだ」

――ホームページに「着物のネガティブなイメージと正面から向き合い、着物の進化について毎日のようにとことん話し」と記載がありました。やはり着物に対するハードルは高いと感じていますか。

巧大 まず着る機会がないので、「着方がわからない」とか「着て行く場所がわからない」という声は当然だと思います。一度着物を着てみたいという方の、「難しい・高い・面倒くさい」という壁のすべてを取り払ってあげたいと思いました。それができれば、着物を日常着に、普段着にという僕らのメッセージが伝わるはずです。

誠也 といっても最初からいきなり普段着は難しいので、「おしゃれをして出かけたい」や「ドレスアップの選択肢の一つ」に着物があればいいというスタンスですね。

巧大 着物に対してのイメージと固定観念はかなり強いのですが、巧流-call-【コール】のお客さんの7割は着物初心者で、ここにあるサンプルを羽織ってもらうと、皆さん口を揃えて「着物ってこんなに楽なんだ」と言われます。

誠也 実際に羽織ると、着こなしの発見も多くて、僕らは着物にローファーやスニーカーを履いていますが、それを見て「草履や雪駄でなければならない」というイメージが取り払われるようです。


兄の元山巧大さんの着物素材はカモフラ柄の細コーデュロイ。帯はせず、帯の代わりとなる紐だけを結んでいる

弟の元山誠也さんの着物素材はシアサッカー。こちらは紐の上に帯を巻いている
和裁士の知識を元にした「着崩れない洋服生地の着物」

――そこでお二人が考案し、意匠権を出願中なのが、「誰でも1分で着ることができ、着崩れない洋服生地の着物」ですね。

巧大 着物の伝統を残しつつ、気軽に着ていただけて、身近に感じてもらえるように「洋服生地」にしています。洋服生地で仕立てることで、今お持ちの洋服と簡単にコーディネートができます。

誠也 作りに関しては、僕らは「コール仕立て」と読んでいますが、両襟先に帯の代わりとなる紐をつけ、背穴を開けました。右襟の紐を背穴に通して、あとは紐を巻くだけです。紐を巻くことでこれ以上動かないので、着崩れが起きず、紐が帯代わりになります。

巧大 自分の着物はコーデュロイで、帯はしていません。冬になるとタートルネックニットを下に着てマフラーを巻くととても暖かいです。この着物は生地代・お仕立代込みで5万8000円(税抜)です。

誠也 僕はシアサッカーの着物で、紐の上に帯を巻いています。春夏は一番人気の生地で、10色ほどカラーバリエーションがあります。この着物は生地代・お仕立代込みで3万8000円(税抜)です。

巧大 縫製グレードは3つあって、ミシンが3万8000円(税抜)から、ハイテク(ミシン+手縫い)がプラス6000円、手縫いがプラス2万円になります。生地によって適した縫製があるのでご相談ですね。手縫いは父の縫製会社に頼んでいます。

誠也 こういう着物は意匠も含めて世の中にあるようでなかったので、父に相談しながらサンプルを作って研究しました。洋服生地なので、普段着ている服と同じ感覚で着てもらえます。

巧大 サロンに来ていただき、試着用の着物を羽織っていただき、サイズを測定。生地見本の中から生地を選んでいただくのは洋服のオーダーメイドと同じです。紐の色も選べますので、帯がなくても粋に着こなせます。


生地見本。夏らしい清涼感のあるプリント柄も多く揃っている
和裁士と一緒に新しい着物を作っていきたい

――「和装士」の仕事を教えていただけますか。

巧大 和装士は国家資格で、4年制の職業訓練校で着物を縫った分だけ給料をもらいますが、なり手はどんどん減っているのが現状です。今は着物の90%が海外縫製になっています。

誠也 ミシン縫製は2本糸で縫っていくので生地に穴を開けてしまいますが、手縫いは細い糸と細い針を使うので、生地にほとんどダメージを与えず、糸を解いたときに洗って熱を加えると穴が閉じてきれいな布に戻ります。そういう“生地の持続可能性”を知っているので、和装士の仕事は残したいんです。

巧大 和装士は生地と対話しながら縫っていくので、着心地は全然違います。

誠也 兄は和裁士の資格を持っているので縫えます。

――今後の「巧流-call-【コール】」のミッションはなんですか。

巧大 まず都内に和裁学校も兼ねる縫製工場を作りたいですね。

誠也 和裁士は高齢になっているので、若い人が誇りを持って取り組める仕事にしたいですね。

巧大 大きな夢は、「和裁士がデザイナーとしても活躍できる」ようにしていきたい。和裁士と一緒に新しい着物を作っていきたいんです。

誠也 着物はこれまでこのカタチですが、時代や環境に合わせて丈が短くなったり、半袖になってもいい。ライフスタイルに合わせられる、いろんなカタチがたくさんあっていいと思っています。そのために「和装士の着物」を作りたいです。

巧大 和装士にデザイン料を払えるぐらいの仕事、若い人が憧れる仕事にしていきたいですね。技術の持続可能性を高めていきたいです。

誠也 それと今後はブランドをいくつか持ちたい。「既製品」や「シルクオーダーメイド」などお客さまのニーズに応えられるブランドを用意していきたいです。

40代のビジネスマンに、着物をお薦めします

誠也 日本のビジネス環境はどんどん慌ただしくなっていると感じます。余裕を持って人生を楽しんでいただくための第一歩として「衣食住」を見つめ直してほしいと思います。「衣食住」は大事な順番に並んでいるという説があって、モチベーションが上がるものを着て、豊かな心であることで、美味しい食事したいと思う。だから“食”や“住”よりも“衣”が大事なんです。「巧流-call-」は、伝統のある着物を着て、心を豊かにするお手伝いしたいと思います。

巧大 ぜひご家族を巻き込んで着物を着てください。着物を着て心が豊かになり、また日常に戻るのもいいものです。ぜひ「コール仕立て」をお試しください。

 

 

「巧流-call-【コール】」も次世代クリエーターとして参加
イベント<ゆかた&夏きもの2019>
日程:2019年6月8日(土)・9日(日)※9日(日)は午後6時閉場
会場:阪急うめだ本店9階 阪急うめだホール
大阪府大阪市北区角田町8-7
入場無料
http://www.hankyu-dept.co.jp/honten/h/event/index.html

巧流-call-【コール】
サロン:東京都江東区清澄3-4-10 春煌ビル2F 
Tel. 03-6458-8497
http://call-kimono.com/
Instagram:call_kimono

Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii

Author profile

梶井 誠
梶井 誠
Kajii Makoto

今はなき講談社のメンズファッション雑誌『Checkmate(チェックメイト)』編集部のファッション班を経てフリーランス。セレクトショップのカタログやメンズ雑誌のファッションページの取材・原稿を担当。SKE48箱推し、フィロのス・奥津マリリ推し、ジュビロ磐田サポーター。1961年福井県出身。

KEYWORDS
着物

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