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【連載】拝啓、40男(イケフォー)諸君。
『最近、だれかを口説いてますか?』
Vol.5 焼鳥「床島」の美に感じる戦慄<後篇>

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焼鳥の難しさと一期一会

三軒茶屋の焼鳥の名店「床島」。余計な物をそぎ落とした究極の美を味あわせてくれます。しかし、言ってしまえば、焼鳥は肉を切り、串に刺し、焼くだけです。なのに、店によって、なぜこれほど味、おいしさに差が出るのでしょう? 焼鳥とはなんとも不思議で奥の深い料理です。その秘密を探るべく、店長の床島正一氏に話を伺いました。

「世田谷区から食鳥処理認可証を受けていて、店で鶏を解体できます。もちろん、希少部位は店の解体分だけではまかない切れませんが、正肉は基本的にすべて店で解体しています」

仕入れた鶏をその場でさばき、串に刺し、焼く。これがおいしさの秘密のひとつのようです。しかし、それだけではありません。見た目の美しさにも秘密がありました。

「もちろん見た目も重要です。でも、整えておかないと、均等に火が通りません。美しいというのは見た目だけじゃなく、おいしさの条件でもあります」

床島氏がこの世界に飛び込む前はファッション関係の仕事についていました。

「サラリーマン時代、いろいろと飲み歩いていて、焼鳥も好きだったんです。焼鳥のシンプルな点が面白いと思って店を始めました。だけど、このシンプルというのが難しくもあります。焼鳥は"お化粧"ができませんから、腕と素材が試されるんですよね」

床島氏はさらに、焼鳥の難しさをこう説明してくれました。

「焼鳥の難しさは、未知の組み合わせの連続という点です。整えて串に刺してはいますが、一本一本が違う。炭の具合も天候や空気の流れによって違います。一本ずつが一期一会なんです」

床島氏の塩を振る姿、焼く姿は真剣そのもの。と同時に、一本一本に愛しさすら感じているようにも見えます。これは焼き方だけの話ではないでしょう。こうして丁寧に魂を込めて焼きあげられた焼鳥を前にすれば、食べる側も一期一会に感じます。じっくりとひと噛みひと噛みを大切にしながら一本ずつを頂く。この一本がとても貴重なものに感じられます。

シンプルな焼鳥の向こうに見えた自分

ところで、「床島」には「」(三軒茶屋)、「」(学芸大学)という姉妹店があります。いずれも「床島」同様、シンプルながらもうまい酒、肴を出す日本酒専門の立ち飲み屋で、連日賑わう人気店です。

3店舗を抱えるオーナーでもある床島氏。そこで、経営者視点から、飲食業につく人材に求められる資質とは何かを聞いてみました。その答えは……。

健康です

とてもシンプルな答えです。しかし、内実はとても説得力のあるものでした。

「正直、飲食業はキツい仕事です。営業時間はずっと立ちっぱなし。仕込みの時間を考えれば、拘束時間はとても長い。大変だから、なかなか続かないんですね。即戦力なんてそう見つかりません。私は1年かけて人材を育てようと思っています。なのに、1ヶ月、2ヶ月で辞められては、こちらとしても徒労ですし、辞める人間にとっても無駄な時間になってしまうかもしれない。ですから、辛い仕事にも耐えられる健康こそが第一だと思っています」

もちろん、技術やセンス、人をもてなす心も大切です。そのことは重々承知した上で、「健康が第一」と言う床島氏。経営者でありながら、包丁を握り、炭の前に立っているからこその答えでしょう。そして、人をもシンプルに見ていることから出るセリフだとも思えます。

と、ここでハタと気付かされました。「床島」の焼鳥を目にし、口にした時に感じた戦慄は、焼鳥の美しさ、おいしさのみに感じたものではなかったんだと。自身を省みて見えてくる自分の姿、生きざまはどうだったか。自分という存在を極限までそぎ落として、さて何が残るだろうか。そんなことを感じさせられ覚えた戦慄でもあったのです。

ただ、この戦慄はある意味、心地よくもあります。「よし、がんばろう」という気にさせられるからです。

「ごちそうさまでした」

そう言って「床島」の扉を出た瞬間、スッと背筋が伸びました。

(了)

<前篇>
≫≫『ひと噛みごとに味わう感動』≪≪

Text:Hiroshi Goto(Kanzo_Koshi)
Photo&Movie:Asami Kikuchi
Arrange:media closet

床島
東京都世田谷区三軒茶屋2-8-10 ルナパーク三軒茶屋105
03-5486-3318
17:30~23:30
定休日/日曜日、第一月曜日(月曜日が祝日の場合は日曜日営業、月曜日休み)


【バックナンバー】
Vol.1 「リュクスな"イタメシ"×東京・神田」という選択

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<前篇>料理とお酒の、意外なカップリングに「ドキッ!」
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Vol.5 焼鳥「床島」の美に感じる戦慄
<前篇>ひと噛みごとに味わう感動
 

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