商売は流行ればいいというわけじゃない
築地のウニ専門店「海栗BAR Kai 一章」。海栗(ウニ)を中心とした料理が堪能できる隠れ家的"ウニバー"ですが、そもそもなぜウニなのでしょう。その疑問に総板長・親方の柳博史氏はこう答えてくれました。
「アリゾナでオイスターバーに行った際、ひらめいたんです。カキって一年中、世界中から取り寄せられるじゃないですか。実はウニも同じなんですね。確かに5~8月がシーズンではあるんですが……、常時、最低でも3種はウニをそろえられる。だったら、"ウニバー"もできるんじゃないかと」
ただ、商売として考えた場合、原価は高いし、ウニが嫌いな人も少なくはない。お客様を選ぶ食材だと、正直、大きくは儲けられないような……。
「おかげさまで、築地に3軒の寿司店を構えることができて、どこも大勢のお客様に支持して頂いています。ですから、儲けるためというよりも、コアな常連さんやウニが好きな方に、大人が楽しめるような空間を提供したくて、こんな店をオープンさせました。『流行る、流行らない』だけじゃないってことですね、商売は」
寿司のカリスマが語る大人の男とは
柳氏はさらにこう続けます。
「店内の内装も全部、自分でデザインしました。赤と黒を基調としているのは、私のこの格好が映えるようにするため。髪も自分でカットしていますし、2階、3階をバーやラウンジにしたのも私が考えました。
結局、"人"なんです。なんでも。私は『世界に一人しかいない』そんな存在、カリスマでありたい。こういう自分を支持してお客様も来て下さるんだと思います」
ところで、ひとつ気になるのは、あの扉です。いったいどういう意図があってのことなのでしょう。
「金庫をイメージしてるんです。最初は会員制にしようかと思ったくらい。ウチの会社にはホームページもありませんし、宣伝することもありません。『ウニが嫌いな人は来ないで下さい』と言っているくらい。そういう意味では、ウニ嫌いの人を寄せ付けない扉?(笑) それは冗談として、この店を、この私を好きになってくれたお客さん一人一人を大切にしたくて、こういう隠れ家的なお店にしたかった。だから、ああいう扉にしたんです」
みずからをプロデュースし、店をプロデュースし、職人としての道を極めようとするその姿は、男から見てもほれぼれするかっこよさです。そんな柳氏は最後に、"大人の男"についてこう語ってくれました。
「大人の男はポリシーがないとね。そして、若いころはいいけど、30代、40代になってキレちゃだめ。下の人間に対しても周りに対しても、怒らず丸く。『ヨシヨシ』と言ってあげるくらいじゃないといけません。これはどんな仕事でも言えることだと思いますよ」
もし、あなたが"大人の男"として自信があるなら、「海栗BAR Kai 一章」へ女性をエスコートして下さい。きっと喜ばれるはずです。もし自信がないなら、やめておいたほうがいいでしょう。この店の雰囲気に、ウニに、女性が持って行かれます。
そう、この店の重い扉はウニ嫌いを寄せ付けないための扉ではありません。あなたが"大人の男"かどうかを試す審判の扉だったのです。ただ、もしその扉を開けることができれば、その先には至福の時間、空間が待っていることでしょう。
(了)
Text:Hiroshi Goto(Kanzo_Koshi)
Photo&Movie:Asami Kikuchi
Arrange:media closet
海栗BAR Kai 一章
東京都中央区築地4-14-17
03-3543-5335
ランチ/11:00~14:30(要予約)
ディナー/17:00~2:00
定休日/水曜日
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