料理とお酒の、意外なカップリングに「ドキッ!」

赤坂の路地裏にたたずむ創作和食料理店が「美音(びおん)」であります。こちらのお店、ナイスミドルたちが週に何回も通うほどお料理とお酒のコーディネートが斬新で面白い!そんな噂を聞いて、伺ってみることに。
大人がゆったり過ごす隠れ家のような雰囲気を大切にするため、お酒のラベルをスマホで撮影することも普段はお断りしているという、実は取材NGのお店なのですが……。今回は特別に許可を得て取材撮影をさせて頂きました。
「美音」にはアラカルトのお料理もありますが、メインはコース料理。一品一品に、お酒を一種合わせるのが「美音」の基本スタイルです。では、さっそく料理とお酒を紹介していきましょう。

一品目はマグロ、タイ、カレイ、アジの刺し身盛り合わせ。醤油には長崎県・五島列島の飛魚(アゴ)の出汁が含まれています。
濃厚な赤身、昆布締めされた白身、〆られた青魚。一皿にいろいろな表情があり、目でも味でも楽しめるのですが、これらをひとつの料理としてまとめあげるのが、角の取れたまろやかな飛魚醤油と、この料理のためにセレクトされた日本酒「残草蓬莱 純米吟醸」です。
「残草蓬莱」はほのかな柑橘系の香りで、甘みもありますが、微発泡ですっきり。これがどの刺し身にもよく合い、食材のうまみを引き立たせてくれている印象。

二品目は鴨ロースのサラダ仕立て。醤油、みりん、酒という和のタレでシンプルに仕上げられた鴨ロースは柔らかく、鴨のうまみがギュッと凝縮されています。
和風ですし、辛口の日本酒でも合わせたいところ。しかし、シニアソムリエでもあるシェフ・倉持邦男氏が選んだのは、「delinea 300」というピノ・ノワール。フルーツのソースを使ったローストならいざ知らず、和に赤ワイン……。少々戸惑いながら、鴨とピノ・ノワールを口にします。すると、不思議なことにこれがよくマッチ。なるほど、だから鴨には濃厚なタレをつけなかったのかと納得させられます。
ラズベリーのような豊かなフレーバーがありつつも、爽やかな酸味で大きく主張し過ぎないピノ・ノワール。鴨のうまみを引き出すというよりも、口の中でワインが鴨のソースになっているかのように感じます。繊細な調理があってこそ、ここまで食材とワインが一体化するのでしょう。
「美音」のマリアージュはまるでポリリズム

三品目は子羊のハンバーグ。注文が入ってから肉をミンチし、手ごねします。ソースはバルサミコベース。ウーシャンフェン(五香粉)という中華スパイスで炊いたカボチャや桜の塩など、ハンバーグ周囲も手が込んでいます。
羊の濃厚で独特な味わいにバルサミコの甘みと酸味。これにはボルドーのずっしりとした赤でも頂きたいところですが、出てきたのは「一白水成 純米吟醸」。しかし、合わせてみると驚きます。日本酒が濃厚な羊に負けていません。
フルーティーでふくよかな「一白水成」は羊、ソース、付け合わせの野菜をすべて丸ごと包み込みます。口内で食材と酒が出会い、そこで初めて料理が完成すると言っても過言ではないでしょう。それだけ計算しつくされたマリアージュです。
おそらく、羊に赤ワインであってもおいしいはず。しかし、あえて日本酒をチョイスすることで、新たな味わいに出会わせてくれます。そして、魚には白ワイン、肉には赤ワイン、和食には日本酒といった固定概念は、ものの見事に瓦解させられるのです。
この独創的で斬新なマリアージュは、決して荘厳なオーケストラではありません。あえて例えるなら繊細で洗練された、ショパンの「幻想即興曲」。異なる拍子が同時に進行する音の連なり、組み合わせを彷彿とさせられます。そう、料理とお酒が織りなすポリリズムが、美音空間に響き渡るのです。
もちろんどれもおいしいのですが、思わずこう告げたくなります。
「やられました」
と。
(続く)
<後篇>
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Text:Hiroshi Goto(Kanzo_Koshi)
Photo&Movie:Asami Kikuchi
Arrange:media closet
美音
東京都港区赤坂2-20-2 ベル赤坂 1F
03-6441-0519
18:00~26:00
定休日/月曜日
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