なんとも手厳しい言葉だが、食に対する価値観は結婚前に気づかなかったのだろうか。
「実は私たちは婚活アプリで出会い、短期間で結婚に至ったんです。食事デートは何度もしましたが、レストランはすべて夫チョイス。オーガニックレストランが多かったでしょうか。
結婚後は、休日もお互いの仕事や資料読み、趣味などで慌ただしいので、基本的に食事は別々です。夫は『炊飯器に無農薬の玄米ご飯を炊いておいてくれればいいから』と言って、自分で買ってきた野菜や納豆、お刺身などで食事を済ませていましたね」
料理に手間がかからなくて楽な反面、夫婦団らんの食事時間はほとんどなく、美晴さんは寂しい気持ちもゼロではなかったという。
「時々、リビングで一緒にDVDを見る際に呑むワインも夫が選んだオーガニックワイン。私がつまみ用に買ったサラミやコンビニのお惣菜なんかを食べようとすると、とたんに不機嫌になります。
『そんな加工品なんか食うな』『気分が悪くなる』と怒鳴られ、ケンカに発展したことは数えきれないほど」
美晴さんは続ける。
「一度、彼が不在の時にこっそりカップラーメンを食べたことがあったんです。久しぶりに食べたカップ麺は罪の味がして、信じられないほど美味しかったですね。
でも夫が帰宅後、大ゲンカとなりました。ゴミ箱に捨てたカップ麺の匂いに彼がいち早く気づいたんです。
『お前は毒を食って、よく平気でいられるな』との言葉に、私も頭にきて『たまに食べるならいいでしょう。あれもダメ、これもダメと言って、あなたの人生は楽しい?』と反抗したんです」
それをきっかけに、夫婦間のコミュニケーションはほとんどなくなったという。
「元々、仕事部屋も寝室も別々でしたから。リビングやキッチンに行く際は彼が自室に戻ったのを確認してから、共有スペースに行くようにしましたね。
ただ、以前のように炊飯器に玄米ご飯だけは炊いておくようにしていました。洗濯と掃除もマメにしていますが、常にピリピリした空気が張り詰めていました……」
☆後編では、「オーガニック食へのこだわり」が夫婦を引き裂いた恐るべき過程をさらに詳しく聞いて行く。
取材/文 蒼井凜花