■EUがBEV化を推し進める背景には、「トヨタ外し」という狙いが
本当に環境のことを考えているのならば、車両製造段階やBEVを走らせるための電力を発電する際にも大量のCO2を排出していることくらいわかるはず。それに気づかないふり(もしくは問題を先送りしようと)して、異常なまでにBEVを推進しようとする背景には、世界最高のハイブリッド技術をもつトヨタを、業界から外していきたい、というEUの思惑があるようだ。
EUでは2010年代前半まで、クリーンディーゼルを次世代のパワートレインとして推し進めていたが、2015年に、VWによるディーゼルゲート事件(排ガス試験時のみ排ガス制御を強める不正プログラムを入れていた)が発覚。
これによってEUのクリーンディーゼル戦略への信頼が失墜してしまった。このままでは、ガソリンハイブリッドシステムで次世代パワートレインを推し進める日本車メーカーに主導権を握らせてしまう、と焦ったEUが、現状から巻き返すために目を付けたのがBEVだ。
EUは、環境保護のためには世界中のクルマを(走行中の)CO2排出がゼロであるBEVへと転換しなければならないとして、EU連合に加盟する27ヶ国の環境大臣が、「2035年にはEUで100%をBEVにする」という無謀な目標を掲げた。これは、トヨタ得意のハイブリッド車やPHEVすら許さない、「露骨なトヨタ外し」を図ったものだ。
日本でもホンダが、2021年4月、「2040年までに電気自動車、燃料電池車の販売比率を100%にする」と宣言。ただ、その姿はやや先走ったようにも見えている。ホンダだけでなく、世界の自動車業界全体として、冷静な判断ができなくなっているのだ。
■「敵はCO2であって、内燃機関車ではない」
日本自動車工業会の会長である豊田章男氏は、BEVに反対しているのではなく、既存のハイブリッド、PHEV、燃料電池、水素エンジンなど、あらゆる選択肢を用意しておくことこそが、カーボンニュートラルにつながるとしている。また、「敵はCO2であって、内燃機関車ではない」とも話しており、達成方策のひとつであるBEVが、目的へとすり替わってしまっている業界に、くぎを刺している。
もちろんトヨタ自動車も、その方針に則った製品戦略を練っており、燃料電池、HEV、PHEV、全方位戦略でカーボンニュートラルへと立ち向かっている。可能性のあるものはすべてチャレンジというスタンスだ。実際、近年のトヨタの新型車たちには、様々なパワートレインが用意されている。水素をガソリンのように燃焼させてエンジンを回す内燃機関の可能性も諦めていないことも喜ばしい限りだ。
しかしながら、日本の政府は、「2035年には新車は100%、BEVにする」という強いものに流れに身を任せた判断をしている。技術のバックボーンなしに政治家が決め走り始めてしまったわけだが、日本の企業の強みである「ハイブリッド技術」を守るような政策を期待したいところだ。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:TOYOTA,Adobe Stock
Edit:Takashi Ogiyama