運命に導かれるようにして佐々木さんは六番館の1室に入居する。
「マンションを買ったのは初めてでした。雑だな…これは入居して最初の感想です。室内の壁の感じとか、ドアの作りとか。でもマンションって隣近所との繋がりがあまりないでしょう?だからこのときは、自分の家のことしかわからなかったんです」。
入居してわずか1年後には、マンションの外壁のタイルに20本を超える亀裂が発見されたという。
「体当たりしないと、玄関が開かない」
「信じられませんよね。我が家が一番困ったのは玄関と台所ドアの開閉。入居直後から、すでに数回調整してもらっていましたが、全然良くならないんですよ。しまいには窓のサッシも思い切り力を入れないと閉めることができなくなってしまいました」。
特に重たい玄関ドアは男性ならまだしも、女性が閉めるのは至難の技だったという。
「妻は体当たりして閉めなくてはならないほどでした。さらに4年くらいすると今度は雨漏りが始まったんです。衣装ケースを持ってきて、水を貯めたことも1度や2度ではありません。ほかにもギシギシとなる床、手で触れると中に空洞があると思われる壁…とにかく、不具合だらけ」。
一級建築士でもある日本建築検査研究所の岩山健一氏はこう話す。
「まさに欠陥住宅のあらゆる現象を集約していますね。実際、これでは住めたものではありません。ただ、正しい知識や比較するものがないとなかなかおかしいと言い出せない場合も多いんです。それから、どこに相談したらいいかわからない、そういう声もよく聞かれますね」。
実際、佐々木さんもそう感じることがあったという。
「私はおかしいものはおかしいと不具合のたびに掛け合って、補修をしてもらっていましたが、実際に全員がそうというわけではありませんでした。後になって知ったことですが、どうすることもできず、部屋がどんどんカビだらけになっていくのを見ていることしかできなかった…六番館にはそんな人もいたんです」