何度か「たか」とメールでのやり取りをした愛理は、それから数日後のある日の平日の夕方、出来るだけ普段着を装い、少し早めに家を出た。
大きめのデイバックの中には、お気に入りの服とメイク道具が入っている。約束の場所の最寄り駅に30分以上早く着いた愛理は、駅に併設するデパートのトイレに入り、着替えを済ませ、手早くメイクを整えた。
勘のいい夫から「そんな大きな荷物を持ってどこに行くの?」と言われた。「久しぶりに会う涼子に、この前の箱根のお土産を渡す」という返しは、我ながら上手くできたと思う。
夫が愛理の一挙手一投足を観察していることを、彼女は知っている。だが、安いプライドが邪魔して、詮索したくてもできない彼の性格も把握済みだ。
今回も敢えて「友達とディナーに行ってくる」としか言わなかったが、内心、何時に帰ってくるかとか、本当に女友達なのかとか、ヤキモキしていることだろう。
5分ほど遅れて、愛理は、待ち合わせのシンガポール料理のレストランに足を踏み入れた。
©︎gettyimages
広い店内を見渡すと、あるテーブルにスーツを着た男性が一人で座っている。
遠目から見ても、スタイルが良い、爽やかな印象は隠しようがない。そして何より、愛理より10歳は若い。
「はじめまして、愛理さんですか?『たか』です。来てくれてありがとうございます」
後編に続く。
Text:FORZA STYLE
RANKING
2
3
4
5
2
3
4
5