「まあ本当に、夏休みは人それぞれですよね。同じ学校内にいても多忙さの度合いは全く違っていますし、夏休みというものに対する意識も違う。本当に『休み』ととらえている教員は年休なども利用して海外旅行に行くなんてこともありますからね。お子さんがいればまた事情は変わってくるし……ただ、なんと言えばよいのでしょうか。普段があまりにも多忙で、人間相手の仕事なので当然ですが、いつだって臨戦態勢のような状況で気持ちを張り詰めさせて暮らしているので、夏休みくらいはゆったりしたいという本音は共通してあるのかもしれません。そもそも普段の教員生活に、超過勤務という概念が薄いので、一般の企業の方々との比較というのはかなり難しいですよね。『いいよなー、学校の先生は夏休みがあって』と言われてしまうと、教員みんなが違和感を持ってしまうのは、そのせいかも。20年以上前は補習も研修会も教科研究会も今ほど盛んではなかったので、その当時と比べてしまうと『今の学校の夏休みは忙しい』とおっしゃる先生方もいらっしゃるし、その気持ちはわかります。でも、まあねえ……」
慎重に言葉を選び、口を濁し続ける真知子さん(仮名)60歳は、定年を目前にしながらもまだ、「夏休み」というものの捉え方には自信が持てないそうだ。
「結局、よくわからないまま定年を迎えてしまいました。本当に年によって違うので、なんともいえないという感じです。わかるようになりたいと思ったこともよく考えればないので、別に『夏休みとはこうあるべきだ』みたいな定義って必要ないのかもしれないですね。その時々で、必要なことに必死で取り組めばいいんですよ、きっと」
そう話す真知子さんの口調はとても落ち着いていた。
取材・文 八幡那由多
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