子どもが巣立ってから「不倫」に走る女性は少なくない。子どもに注いできた愛情が行き場を失くし、喪失感を埋めるかのように恋をする。事実、最近では熟年離婚の増加が、あらゆるメディアで報じられている。日本人の結婚観は、一昔前とは比べようもないほどに変わっているのだ。
由里子(仮名)の場合も「最後のチャンス」とばかりに恋心を温め始めたのだが……
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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一人息子が就職を期に家を出てから、由里子は夫と都内のマンションで二人暮らしだ。子供が巣立つのは自然なことだが、家の中がとたんに広く感じるようになり寂しさのあまり涙が溢れて止まらなくなることもあった。
そんな生活に彩りを与えてくれたのが韓国ドラマだ。由里子を心配した会社の同僚から強く勧められたのがきっかけで、今ではすっかりはまりハラハラドキドキの展開に続きが気になり気づいたら夜が明けていたこともあった。
感情表現がストレートで情熱的な男性主人公のセリフに胸を焦がし、ヒロインに自分を投影しているうちに、長らく眠っていた恋心が再び目覚めるのを感じた。
それと同時に学生時代に付き合っていた浩司のことを思い出すように。随分昔のことだが彼のことは鮮明に思い出せる。
飲み会で知り合った浩司は、よれたTシャツにデニムを穿いていてもオーラを放つ美しい男だった。低音ボイスの彼が歌うバラードに聴き入り、曲が終わる頃には恋に落ちていた。
彼の自信ありげな表情や言葉、その反面ふとしたときに見せる弱さ。そんなどこか危なげなところも魅力的だった。
付き合うようになってからも浩司はとにかくモテた。女の子からもらったプレゼントを平気で身に着ける無神経さに心を掻き乱されながらもどんどん夢中になった。彼の部屋のベッドと壁の間に女物のスカーフが挟まっているのを見つけた時はさすがに「もう別れる」と言って泣きながら飛び出したが、浩司は追いかけては来なかった。それであっけなく終わったのだ。
その後も由里子はずっと浩司からの連絡を待っていた。彼が利用する駅のホームのベンチでずっと座っていたこともあった。偶然を装ってでも会いたかったが連絡する勇気はなかった。
そんな時に出会ったのが今の夫だ。ノリで生きているようなポジティブな性格。運動が趣味の単純で明るいスポーツマン。浩司とは真逆の人種だ。計算や駆け引きなど全くせず、真っ直ぐに愛情表現をする当時の夫に由里子の心は癒された。浩司に向けたような強い恋心はなかったが、周りがどんどん結婚していくようになり由里子もなんとなく一緒になったのだ。
「こんな平凡な人生のまま、年老いて行くのは嫌だな」
韓国ドラマのお気に入りのシーンを観ながらふとそう思った。自分の人生がつまらないものに思えて仕方ない。
「もう一度、浩司に会ってから死にたいな」
立て続けにビールを二本も飲んだせいで酔っぱらっていたのかもしれない。湧き上がる気持ちを抑えることができなくなった。
今夜、夫は接待で帰宅が遅い。
ずっと消せなかった浩司の携帯番号を見つめ……意を決してかけてみた。
Text:女の事件簿調査チーム