理由は定かではないが、お向かいの息子が働かずに家にいて、しばしば母親を怒鳴ったり、カメラを持って辺りをうろついたりしているということだけは間違いない。
絵美さんの娘たちも毎日のように男の怒鳴り声を聞いたと怯えながら報告してくる。
「私自身も何度も聞いてます。やっぱり凄く怖いんですよ。子どもが寝た後自転車でコンビニに行った時には、物がどこかにぶつかるような大きな音がしていました。年老いたお母さんに手なんかあげてないといいんですけど」
そんなある日、母がお喋り好きおばさんから新たに仕入れた情報に、絵美さんは凍り付いた。
「息子に風俗に使うためのお小遣いを渡しているって、向かいのおばちゃんが言っていたというんです。
息子は50歳になるまで彼女ができたことがなくて、生身の女の人との接点がないから、性欲が有り余って犯罪に走りはしないか不安で仕方がないって。最近性犯罪が多いので、うちの息子もやりかねないと本気で思っているらしいんですよ」
絵美さんの母親やおばさま達は風俗店のことを「いやらしいお店」と表現した。
「お向かいさんは、いやらしいお店の店員さんに頭が上がらないと言っていたそうです。昔はそんな商売やっている女はろくでもないと思っていたけど、うちの息子のような危なっかしい子が何とか欲求を満たせるのは、ああいう方々がいるからだと」
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