「治療内容の説明や集中治療室への付き添いは家族しか入ることができない。自分にとって最後の最愛の人に看取ってもらいたいから結婚して家族になりたい」
そんな父の願いに弟は反対した。あのときもう少し慎重になっていれば、家族がこんなことにはならなかったのに……。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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IT企業の広報として勤務している祥子(仮名・31歳)。4年前に社内恋愛で結婚をして出産し、2歳になる子供を保育園に預けながらフルタイムで働いている。
祥子の家族には父・誠司(仮名・63歳)、長男・和巳(仮名・29歳)、次女・美穂(仮名・21歳)がいる。母は15年前に事故で他界し、それからは誠司が一人で子どもたちを育ててくれた。
誠司は銀座で不動産業を営み、ビルを所有。実家は世田谷の閑静な住宅街に佇む100坪の邸宅だ。
祥子は父の援助もあり、結婚後は港区のタワマンに入居。長男の和巳は仕事でシンガポールに赴任中。世田谷の広い実家には、次女で大学生の美穂と父の誠司が二人。広い家を持て余しながら暮らしている。
祥子が息子と一緒に実家に戻っていたある日、父の携帯に着信が。遠くで話しているのを聞いていると、どうやら女の人のよう……。問いただすと、付き合っている人がいるというのだ。
母が他界してからというもの、子育てが生活の中心だった父は女っ気もなく独身を貫いていた。そんな父に親しい人が出来たのかと思うと、少し嬉しかった。まだある人生を親やジイジとしてだけでなく、男性としても幸せでいてくれたらいいと。
「今度みんなに紹介するよ」
誠司は恥ずかしそうに祥子に言った。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏が言う。
「高齢化社会の激化に伴い、高齢者の恋愛トラブルは増えている。後妻業という小説もあるように、妻を亡くした男性が人生の後半になって、新しい女性を家族に加えるケースは珍しくない。しかし、一時の感情の高まりで安易に事を進めると、親族間のつながりを破壊しかねない」
それから数ヶ月後、祥子と美穂は、父がお付き合いしている相手と一緒に食事をすることになった。
Text:女の事件簿調査チーム