先手を打ったのは彼だった。少し前から彼は灯里に母親のことを相談していた。
「彼のお母さんがすごく過干渉みたいで、傷つけたくはないけれど、さすがに親離れしたいと相談を受けていました。結構、思い詰めて考えているようだったので心配をしていたんです。そうしたら、もう少し話を聞いて欲しいと言われて……」
灯里は悩んだ。さすがに2人で会うのは、まずいような気がしたが話を聞くにはそれ以外に方法はない。結局灯里は彼が休みの水曜日に彼を美術館に誘ったんだという。
「ちょうどお互いに行ってみたい展示があったので、息抜きがてらどう? と誘いました。同じ趣味を持つ同志的な意味合いをもたせたくて美術館を選んだのかもしれません。その日はちょうど雨で、春とは思えない寒さでしたが、それがまた美術館日和だね、なんて話をしたことを覚えています」
一通り展示を見て、2人は美術館のなかにある喫茶室に入った。灯里はそこで話を聞こうと思ったのだ。
「コーヒーを頼んで、向き合って座るとなんだかソワソワしました。ちょっとデート? みたいで。ただ、15歳も歳の差がありましたし、だからこそ私に相談を持ちかけたんだと思っていたので油断していました、完全に」
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