亮太の会社はリモートワークを推奨しているため、自宅で仕事をする場面も多かった。佐智子も当然そのことを承知している。
「妻は、僕の仕事が楽そうに見えるとしつこく言うんです。もっと稼げる会社に転職しようという気がないのか、とも言ってましたね。ちょっと前は、『あなたは必ず出世する』とか持ち上げてたくせに」
妊娠をせかす言動は、その後も続いた。
「僕、うなぎが食べられないんですけど、それは食わず嫌いだ、精をつけろと言われて、時々夕食にうなぎを出されました。好きな食べ物ならいいですが、嫌いなのにあんな高価なものを買ってくるなんて……」
子どもができず、専業主婦になれないまま時間が過ぎていくことに対し、佐智子は徐々に苛立ちを募らせていった。
「妻は、平気で本音をさらけ出すようになりました。こんなつもりじゃなかったと言い、どんなつもりか訊ねると、僕の会社ではわりと頻繁に給与の見直しがあるから、昇給の機会が多いと思っていたとか、すぐに子どもができると思ってたとか。何もかもうまく行かないと芝居がかってため息をついていましたね」
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