「定時で帰ってこられるような暇な会社に勤めてて何のストレスがあんの?と言われました。楽な仕事してるくせに、妻が正社員からパートに切り替えることに対して嫌な顔をするなんて、私を頼りすぎだと」
亮太の会社はリモートワークを推奨しているため、自宅で仕事をする場面も多かった。佐智子も当然そのことを承知している。
「妻は、僕の仕事が楽そうに見えるとしつこく言うんです。もっと稼げる会社に転職しようという気がないのか、とも言ってましたね。ちょっと前は、あなたは必ず出世するとか持ち上げてたくせに」
子どもができず、専業主婦になれないまま時間が過ぎていくことに対し、佐智子は徐々に苛立ちを募らせたという。
「妻は、平気で本音をさらすようになりました。こんなつもりじゃなかったと言い、どんなつもりか訊ねると、僕の会社ではわりと頻繁に給与の見直しがあるから、昇給の機会が多いと思っていたとか、すぐに子どもができると思ってたとか......。何もかもうまく行かないと芝居がかってため息をついていましたね」
それでも亮太は、凝り固まった価値観の中でイライラしている妻の考え方を変えようと、旅行を提案したり食事を一緒に作ったり、自分なりに働きかけた。そうすることで、結婚前の穏やかで優しかった妻に戻ってくれるのではと一縷の望みをかけたのだ。
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