東京都の小学校PTA協議会が公益社団法人日本PTA全国協議会という大組織から脱退することをご存じだろうか。活動方針の行き違いや、会費の還元が有効に行われていないことなどへの不満から、都の小P会たっての希望で全体組織を抜けるとされる。
このことがちょっとした話題となり、今後の展開から目が離せない「PTA」。
そもそも謎の多い組織ではあるが、もっと謎なのが、PTA役員に駆り出された親たちが時折ハマり込むというPTAの恋沼だ。小野田七海(仮名)も沼にはまった一人。嫌々PTA役員に就任したことがきっかけで、今や家庭は崩壊寸前だという。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今になってみると、もともと私に恋の願望があったのかなって思いますね」
小野田七海はそう呟きながら、長く細い指先を見つめた。セミロングの黒髪は肩下で丁寧に巻かれ、メイクはいたってナチュラル。しかし、見る人が見れば下地作りへの念の入れようは明らかだ。さて、鉄壁の化粧の下の素顔はいかに。
「ダンナとはもうとっくに愛とか恋とかじゃないし、もともとあまり構ってもらってこなかったので、自分が女だって実感する場面が生活の中になくて、物足りなかったのかもしれませんね」
七海は悪いことでもしたかのように、来月40歳になる、と言って自嘲気味に笑った。
七海はメーカー勤務の夫と2人の息子を持つ主婦だが、フランチャイズの自宅経営型塾を運営する自営業者でもある。「子どもたちの個性を大事にした教育がしたくて塾を始めた」というのだから、志は高かったはずだ。が、その理想の前に立ちはだかったのが恋の罠だったというわけか。
「最初は本当に嫌でしたよ、PTA役員になるのが。ただでさえ忙しいのに、無給でこき使われるなんてうんざり。でも、打診があったら断れない雰囲気なんですよ。で、仕方なく……」
七海は嫌々就任したPTA役員の初会合で、ある人に目を留めた。
七海よりも20㎝以上は高い身長に精悍な顔つき、清潔感のある高級そうなシャツをイタリアの伊達男のように着こなす塚原という人物だった。PTA会長に選出され、拍手を浴びてテレる表情に、七海は釘づけになったという。
「うちのダンナはおしゃれに興味がなくて、放っておくととんでもないコーデをしでかすので、塚原さんの完璧なコーディネートに目を見張りましたね。立ち居振る舞いもスマートで、副会長になった私にも、すごく紳士的に接してくれて。正直、射抜かれました」
七海は、塚原に会えるなら、PTAも悪くないかもとすぐに思い始めたそうだ。副会長に選出されたこともあり、塚原と「コンビ」になる自分を夢想してほくそ笑んだのだという。
もともと真面目な性格の七海は、塚原と並んだときに見劣りしない自分でいられるよう、メイクを一から学び直し、コーディネート講座を受けてファッションセンスまで磨いた。
「バカみたいですよね、一目惚れみたいな感じで。初対面の後しばらくして親睦会があったんですが、私副会長だったので、塚原さんの隣に座ることができて、いっぱい話したんですよ。嬉しいやら楽しいやら……。私の話もたくさん聞いてくれて、ダンナとは大違いでしたよ」
今でも好きでたまらない。そんな顔で七海は話し続けた。それにしても、どうしても塚原と夫を比較したくなるらしい。
「でも、どうなのかな。塚原さん、もしかすると浮気に慣れてたのかもしれない。私、PTA主催の講演会に塚原さんと2人で出席するよう学校から依頼されたんですけど、その日の塚原さんは狩りモードでしたね。グイグイきました。まあ、私が色目を使ってたからなんでしょうけど」
講演会の後、2人はカフェで2時間以上も話し込んだという。塚原は七海の夫への愚痴を聞き出しては、「それはないよね」「七海ちゃん、こんなにかわいいのにかわいそうだ」などと七海を擁護し、褒めそやし、舞い上がらせた。口先だけなら何とでもいえますよね~と独りごちつつ、七海はやはり未練たっぷりだ。
「その講演会を機に、塚原さんとメールやSNSでやりとりするようになりました。はじめは無理やり業務連絡を作ってたんですが、そのうち用もないのに堂々とするようになって……そのドキドキとかウズウズたるや……もうたまりませんでした。あんな気持ちは初めてですね」
塚原とのやりとりの内容は、とても他人には見せられない代物だったという。もはや「前戯」だったと。
「触ってほしいとか、普通に送ってました。いえ、もっともっと過激な内容でした……。私、ヤバい主婦ですよね」
☆そして七海は言葉での交わりでは抑えられず、ついに男と女の関係に堕ちていく。次回では詳細に「家庭崩壊」の顛末を追っていく。反面教師として読み進めてほしい☆
ライター 中小林 亜紀