ある日のことだった。ハツネが康にお金を貸して欲しいと言い出した。
「おろしてくるのを忘れたと言っていました。実際のところ、こんな歳になってあれだけど、ハツネとはいい雰囲気というか彼女に恋愛感情を抱いていたんです。どうにかなりたいとかそういうのとは違うけれど、手が触れたり、少し見つめあったり……そんな小さなやりとりが毎日に張り合いを与えていたのは事実で、それをなくしたくはなかったからお金を貸しました。戻ってこないことを覚悟で。差し出した1万円はすぐに馬券に消えましたね。でもその馬券もパーで、その日は全然当たらなくて、ハツネはずっとイライラしていました。そして急に私になぜ、全額を賭けないのかと聞いてきたんです」
ハツネは康の財布に1万円札がごっそり入っていることを知っていた。賭けないならなぜ競馬場にきているのかと詰め寄ったという。康は自分だけが恋愛感情を持っていることを悟られないよう、咄嗟にその場凌ぎの言葉を口にした。
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