夏美さんも義母も、まさか遠く離れて暮らすことになるなんて……と気が沈む。しかしもう無事に息子がやっていけるかどうかを見守るしかない。息子はK高校に入学すれば、野球部に入って寮生活をすると言っている。
もちろんお金もかかるし、生活は大変だろう。そればかりか、野球経験の乏しい息子が、本当に野球部でやっていけるのか2人は不安しかなかった。だが夫は「高校から野球を始めた子もいる」と、またしてもノーテンキ。
そして、K高校の受験日となり、息子は試験に臨んだ。「手応えがあった」 息子はそう口にしていた。
その1週間後、息子は言葉通り、見事K高校に合格したのだった。この春から息子は実家を離れ、遠く離れた街で寮生活をすることになる。夏美さんは、一緒に暮らす残りわずかな時間を噛み締め、できる限り息子と多くの時間を過ごそうとしている。
「毎日電話するから」
息子はそう言うと、恥ずかしそうに自分の部屋に戻っていったが、夏美さんは東京に引っ越して息子の近くで暮らそうかと真剣に考えている。針の筵のようなこの家で、義母と夫と暮らす自信が、もう1ミリもないからだ。息子がこんな決断をしたのは、家庭関係が荒んでいたからでは...そんな思いがよぎって、眠れない日が続いている。
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