「お教室から、入団するためには特別なレッスンを受ける必要があると言われたんです。娘は、そのバレエ団の芸術監督である男性から、直接指導を受けることになりました。月に一回のレッスン料は通常のレッスンの3倍。けして安くはありませんが、娘の夢を応援したかったんです。生き生きと好きなバレエに打ち込む娘は、私の誇りでした。でも……。それをきっかけに、娘は変わってしまいました」
はじめて芸術監督のレッスンを受けた日、陽菜さんは帰宅するなり号泣した。
「全然ダメだって言われたって。『スタイルは悪いし、踊っていても何を伝えようとしているのかわからない。うちのバレエ団にはいらないし、この教室に来られているのが信じられない』と。泣きながら言う娘の姿を見て、私も主人も正直腹が立ちました。」
陽菜さんは、複数のコンクールでの受賞経験を持つ実力者だ。長身小顔でモデルにスカウトされたこともある。
「相当ショックだったと思います。もう無理せずやめてもいいよ、と伝えたのですが、娘は『負けたくないから』と言って、次の月も芸術監督のレッスンを受けに行きました。』
もちろん、その日も陽菜さんは泣きながら帰ってきた。
やがて陽菜さんは、
「何とかしてあの人好みのダンサーになりたい。」
と言うようになる。
「太ってる」「僕の好みの踊り方じゃない」。侮辱するような言葉を浴びせられていたはずなのに。陽子さんは、なんだか危険なものを感じたそうだ。
毎日終電まで芸術監督の元でマンツーマンの指導を受けるうちに、「あの人の理想の女性に、改造されたい」とまでこぼすようになる娘。心身に異常をきたし始めたその姿を見て、母の脳裏によぎったのは「洗脳」という二文字だった。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏が言う。
「バレエなど独特のヒエラルキーが存在する習い事の世界では、外部から見たら信じられないような行為が厳然として存在するんです。第三者が客観的にみないと『カルト』と呼んでも過言ではないようなことが平気で起きたりする」
☆次回では、バレエ少女を「搾取」しているかのような悲劇について、詳細にレポートしていく。