仕事上の悩みも少しずつ話してくれるようになったある時、トモカズの仕事が立て込んで夜遅くまで残業している日があった。帰りが22時を超え、疲れも溜まっている。
ミユと偶然帰りが一緒になったのは、そんな時だった。
毎日重ねた会話や仕事の悩み相談、いつもとは違う夜にする会話、彼の抱える物足りなさ。
たったこれだけのことで、話す内容は急に男女の内容になった。
〈ご飯つれてってくださいよ〉
そう切り出したのはミユの方だった。
「なんかその時の疲れた表情と、下から見上げる目を見て気づいたんです。自分はこの子の事が好きなんだって」
普段できない話をした。トモカズの家族の事やミユが以前付き合っていた彼氏の事。
話しているうちに、物足りなさを埋めるピースを見つけた気がした。それは安定し過ぎた自分を満たす危ないピースだった。
その日からは毎週金曜日の夜にご飯を一緒に食べる約束をした。
1ケ月が過ぎた時、別れ際にミユは一言
〈好き〉
と呟いた。
「そこで“たが”が外れないわけないですよね。その日の夜は初めて彼女の家に行き、体の関係を持ちました。彼女との情事にふける中、彼女を手に入れた喜びとともに、自分の中の空っぽの器が満たされていく感覚を味わいました」
不倫はテレビや週刊誌の世界だけのものだと思っていた彼はもういない。
単身赴任先ということもあり、家族にはバレない2人だけの世界が出来上がった。
「情事を重ねるたびに、彼女が私を好きになっていくのが分るんです。セフレと割り切るにはお互い愛情をもって接している気もしますし、これがいわゆる不倫かと改めて思いましたね」
全てを手に入れた満足感が彼を支配していた。
「そんな関係が1年ほど続きました。長続きしないことはわかっていたんですが、まさかあんな形で終わるとは思いもしませんでしたよ」
そう振り返ると彼は大きくため息をついた。