「毒親」。学術用語ではないこの言葉は、「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親」を指す言葉として、1989年にスーザン・フォワードが自身の著書の中で用いたものだ。
「毒親」から受ける“毒”の種類はさまざまで、毒抜きをしなければ、年を重ねて大人になってからも苦しむことに。中でも、接する機会の多い母親から受ける影響は大きい。
前田リエさん(仮名・35歳)も、「毒母」からの“負”の影響が大きく、長年にわたり悩み苦しみ続けた一人だ。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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毒舌で、夫である父の文句や悪口を日常的に言っていた母親。そんな女性が中心に鎮座していた家庭で育ったリエさん。
「母とは真逆で、物静かで、妻の代わりに家事もマメにこなしていた父。平日は仕事であまり家にはいないことも多かったですが、決して居心地のいい状況ではないにもかかわらず、表立って妻の横暴ぶりをとがめることなく、淡々と暮らしていたように思います」
しかし、母親が罵倒するのは、父だけではなかった。
「父が我慢するのは自分のことだけではありませんでした。目の前で娘が母親に罵倒されたり、理不尽な怒りの標的になっていても、父はその場にいながら何も口を出しませんでした……。同じ部屋にいて気づかないわけはないのに『見て見ぬふり』ですよね」
幼少期の母親との思い出は? と問われると……。
「母には、子供を突き放すようなところがありました。私がおかあさ~ん、と甘えると、『調子に乗るな」や『甘えるな』と突っぱねられました。かといって、一歩引いていると、『素直じゃない』『かわいくない子』となじられるんです」
そんな生い立ちのリエさんが子供のころから悩まされてきたこと。それは、「見離され・見捨てられ不安」だ。信頼している人との間に少し距離を感じると、見捨てられてしまったような気持ちになり、不安でいてもたってもいられない状態になることをいう。
「今、自分の前にいて仲良くしている人も、ある日突然、自分のことを嫌いになるかもしれない、見離されるかもしれない、そんな気がしてならないのです」
そんなリエさんの“不安”は、あることをきっかけに、いったんは収まっていたそう。それは、「恋人」の存在だった。
やがて結婚し、子どもも生まれたリエさん。「今を逃したらもう二度と母と会えない」と、久しぶりに母親に電話をしてみたが……。
後編に続く
Text:女の事件簿調査チーム