「キャーーーッ！ ゆう!! ゆうちゃん!!」
残暑厳しいある日、駅のホームで突然悲鳴が上がった。ラッシュ終わりの10時とはいえホームに人は多く、一瞬にして皆が注目した。なんと、電車が到着し多くの人が昇降している中、女性が座り込み電車とホームの間へ必死に手を入れている。
©Getty Imagesまさか、人が落ちたのか？ それとも変な人？ と周囲の人は少し遠巻きに状況を見ていたが、非常ボタンが押され周囲に警報が響き渡ると、一瞬にして緊迫した空気が広がった。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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母親の静佳（仮名）32歳。数年間付き合った彼との間に子供ができたが、相手は結婚も出産も望まず、そのままシングルマザーとして娘の優を出産。現在、バラエティショップで販売の仕事をしながら一人で優を育てている。
シングルマザーとして子供を育てることは、社会的にまだまだ厳しい。経済的に毎月厳しいからと仕事を掛け持ちするにも、高額なベビーシッター代を優遇されることもなく、お金は右から左へと流れていってしまう。そんな生活の中で静佳と優は必死に生きている。
©Getty Imagesこの日、静佳は今後のことを両親に相談しようと、優を連れて実家へ行く途中だった。だが、駅で乗り換えようと電車から降りるときに人とぶつかり、静佳は小さな優の手をうっかり離してしまった。偶然にも停車位置は電車とホームの間が広く、２歳半の優の小さな体はするりと数十センチの隙間に滑り落ちてしまった。
静佳は一瞬でパニックに陥ったが「絶対に助けなきゃ！」と、電車のドアが閉まりそうでも構うことなく、地面に顔をつけるようにして隙間に必死に手を伸ばしている。
「ゆう！ ゆう！ 大丈夫だからね。今助けてあげるから待ってて！ ほら、手を伸ばして」
そう言いながら優を引き上げようとするが、手先だけの力だけでは１m以上下にいる２歳半の娘を引き上げることはできない。周囲がざわつき始めるが未だ駅の職員は到着せず、非常ボタンの警報が鳴り響いている。
そんなとき、一人の男性が静佳に声を掛けた。
「僕が引き上げてみますから、変わってください」
Text：女の事件簿調査チーム
