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FASHION 百“靴”争鳴

トラボルタとビームスに憧れて。靴を生業にした、GMT代表 横瀬秀明の物語
Vol.2

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水を得た魚のよう

Courtesy of GMT

そのころのダブル・エフ・ジーはわたしを入れて4人しかいませんでした。バイトのわたしはもっぱら電話番で、たまに出荷作業を手伝うくらい。タバコを吸いながら、コーヒーを飲みながらのバイトです。楽な仕事だと思っていたのもあって、そのまま社員に。

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そんな始まりでしたが、次第にわたしの目の色は変わっていきます。ダブル・エフ・ジーは次から次へと大物を一本釣りしていったからです。G.H.バス、G.T.ホーキンス、ビルケンシュトック、アルフレッド・サージェント……。

好きに売ってこいというのでわたしは いの一番にビームスに向かいました。ビームスはたくさん買ってくれました。大好きなビームスに扱ってもらう。喜び以外のなにものでもありません。

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わたしは憧れの店を次々に開拓していきました。シップス、ケント、テイジン、タカキュー、ミツミネ……。仕入れ担当者は指折りの“ファッションの変態”です。彼らと話ができるだけでも楽しかった。深田さん(ダブル・エフ・ジー社長)はそんなわたしをみて、「水を得た魚のようだな」と感心していました。

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営業から伝票書き、値札付けといった出荷作業のもろもろまで。ダブル・エフ・ジーではこの仕事に必要なありとあらゆることを経験させていただきました。いまのわたしの肥やしになっていることは間違いありません。

少ない社員だからできたことですが、入社2年目の20歳の年には海外の見本市にもいかせてもらいました。

わたしを成長させてくれた海の向こうの恩人がロブスのオーナー、セネカ・ヴィンチェンソです。のちにワールド フットウェア ギャラリーの屋台骨となるロブスはわたしが社員になる前年に取り扱いが始まりました。

彼はわたしに いいました。「お前はモデリスタになれ」って。きっかけは試しに描いた靴のスケッチでした。これが彼の目に留まり、商品化されて、飛ぶように売れた。わたしが描いたのは、フリンジやビットをアクセントにした、クロコダイルやリザードのエンボシングレザーをまとったパンプスでした。

GettyImages

ジョルジオ・アルマーニ、ジャンニ・ヴェルサーチ、ジャンフランコ・フェレ。当時はイタカジ(イタリアンカジュアル)がファッションシーンを席巻していました。ところが この足元にふさわしい靴というと、これがなかったんです。取引先からは「こんな靴が欲しかったんだ」と たいそう褒められました。

わたしはセネカを師と仰ぎ、モデリスタとしての“いろは”を いちから学びました。しまいにはイタリア語で指示書がつくれるまでになりました。

潮目が変わった

当時海外の靴の仕入れは制限されていました。保護主義の一環で、それはIQ(import quota)と呼ばれる仕組みでした。つまり、靴の輸入に携われるのは限られた人間だけだったんです。この優越感も手伝ってわたしはバイイングに夢中になっていきます。ドイツのGDS、イタリアのミカム、フランスのセムなど名だたるシューショーを訪れ、工場にも足を運びました。

そうして引っ張ってきたのがビルケンシュトック(85年)、パラブーツ(87年)、カンペール(91年)、アイランドスリッパ(92年)でした。

わたしは潮目が変わったのを感じました。本能的に面白いと思って買い付けたブランドはことごとくコンフォートなエッセンスをそなえていたんです。

それまでファッションは我慢するもの、というのが色気づいた若者の共通認識でした。たとえばイタリアの靴は甲高ダンビロな日本人には細すぎる。履きたいなら2サイズ大きな靴を選べ、とかね。

いま考えてみれば、それはバブルの崩壊で世の中ががらりと変わるタイミングとも符合していました。

 

つづく

横瀬秀明(よこせひであき)
GMT代表取締役。1965年6月6日、代々木上原生まれ。高校卒業後、ダブル・エフ・ジー入社。カンペール、ビルケンシュトック、パラブーツといったいまをときめくブランドを発掘する。1994年、GMTを創業。ジャラン スリウァヤ、G.H.バス、トリッカーズ、アイランド スリッパなどやはりシューシーンに欠かせないブランドを展開。10を超える直営店を運営するかたわら、ビームスやユナイテッドアローズ、三越伊勢丹といった日本を代表するストアとも太いパイプを築く。

【問い合わせ】
GMT
https://www.gmt-tokyo.com

Photo:Simpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

 



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