夫婦間で、どちらかの浮気が発覚した場合、これまでの愛情はウソのように冷めていく。強い嫌悪感や生理的な不快感を抱きながら夫婦として続けていくことは難しく、離婚という道を選ぶことも多いだろう。
しかし、相手が死んだ直後に「それ」が発覚した場合は……?
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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石川由美(仮名)50歳は静かに語り始めた。
「2年前、夫のがんが見つかりました。膵臓癌でした。区の定期健診で数値に異常が見られ、『これを機会に少し詳しく体の検査をしてみては?』という医師の勧めから受けた検査で、ラッキーなことに発見できたのです。“余命”なんて言葉はお医者様からは出てくるほど悪い状態ではありませんでしたが、決して良い状況でもありませんでした」
画家としてほそぼそと活動を続けていた夫。由美は美術館のキュレーター(学芸員)としての仕事をしながら家計を支え続けた。子供はいないながらも夫婦仲は良好で、二人の共通話題はやはり絵画について。絵を描くことも二人の楽しみの一つだった。
そんな最愛の夫ががんに。
「がんが見つかったときは頭が真っ白になりました」
少しでも長く生きてほしい一心で、身体にいいといわれる食材は購入し、喜んでもらえるようなおいしい料理を作る毎日だったという。
「芸術家特有と言ったらいいのでしょうか、はたから見れば少し気難しくわがままな部分があった夫。体調が悪いときなどは、機嫌も悪く『こんなまずい料理は食べられない!』と怒鳴りつけられ、食事を私に投げつけることもしばしば……。状態の悪化に伴い、筆も走らなくなり、思うような絵が描けない時には、『どうせへたくそだと思っているんだろう、キュレーターさんよ!』と絵筆を投げつけられました。しかし、乱暴な言葉もわがままな願いも受け止めてきました。ひとえに、夫がどんな状態になっても最期まで好きなことが続けられるような環境を作ってあげたいという思いからでした」
病がわかってから二年が経過したころには、入退院を繰りかえすように。そして再び強い痛みに襲われ、入院している最中、告げられた医師からの言葉。
「長くてあと一か月です。突然意識がなくなってしまうこともあるかと思うので、会わせたい方がいらっしゃるのならば、今週あたりが最後のチャンスになるかもしれません」
その言葉を受け、由美はすぐに夫の大学時代からの友人、大野に連絡をとり、その旨を伝えた。
「午前中には数人の親戚が訪れました。午後には大野君が面会に来ました。秋真っ盛りで、病院の庭の木々の紅葉が美しかったのを覚えています」
大野が病室を訪れる前、窓から紅葉をぼんやりと眺めていた由美は、大野と友人以外に、女性の姿を見かけていたという。
「なんだか揉めている様子で……。女性は泣いているようでした。遠目でしたが、夫が個展を開くたびにいらしてくださる方のように見えました。お名前は知りませんでしたが、きっと長年、夫の絵を愛してくださった方だったんだろうなと思っていました」
しかし、その日病室を訪れたのは男性二人だった。
「『もう一人、女性の方もいらっしゃいませんでしたか?』と、大野君に尋ねましたが、俺たち二人で来たという返事。あれ?とは思いましたが、しつこく問い詰めるのもどうかと、それ以上聞き返すことはしませんでした」
しかし、その数時間後。由美の疑念が思わぬ形で晴れることになる。
Text:女の事件簿調査チーム