肉厚な革の場合、履きジワが甲に干渉することがありますが、自分の木型ならその心配はいりません。
あぁ、横一本に入っている履きジワは別にペンでつけたわけじゃありませんよ(笑)。ペンを使ったシワ入れというのが靴好きのあいだで知られているけれど、ハロゲイトにその儀式は不要です。理に適った木型でつくったジャストサイズの靴ならば、履きジワは おのずときれいに入るものなんです。
以上はすべて往年の木型から学んだことです。木型は量産化の流れでフラットになってしまった。いまは過去を掘り起こすことが なにより大切です。
時計の針をもとに戻す
フラットな木型でなにが悪いのかという人がいるかも知れません。その靴を履くことですべての人が足にトラブルを抱えるわけではありませんから、一理あります。
問題は、それでよしとすれば ものをみるエンドユーザーの目はやせ細り、あとを追うように現場も地盤沈下を起こすということです。
メリハリのない木型は作業のしやすさを求めたものであり、ただひたすら効率を考えた結果です。靴文化を育もうと思えば時計の針をもとに戻してやる必要がありました。そもそもそこには履き手への愛がありません。
職人が長い年月をかけてつくりあげた木型も靴も、だれがなんといおうとすばらしい。フランスのことわざにあるように、ぴたりと沿った(素敵な)靴は履き手を素敵な場所へ連れていってくれるんです。
伊勢丹のトランクショーには自分も立ちました。お客さんに接して自分は大いに勇気づけられました。いいものは直感でわかるんです。ツラをみて、試しに足を入れれば例外なく財布の紐を緩めていただけました。
お褒めの言葉で多かったのは「履いてみれば軽い」というものでした。それは足にかかる圧が等しく分散されている証です。
Vol.3へ、つづく
松田哲弥(まつだ てつや)
1979年神奈川生まれ。高校卒業後、地元東京シューズの横浜ルーインズのアルバイトを経てエスペランサ靴学院入学。半年足らずで中退し、アルバイト先だった神戸レザークロスに2002年に入社。木型部門に配属される。2005年、木型職人として独立。2020年、仲間とともにハロゲイトをローンチ。
【問い合わせ】
HARROGATE
https://harrogate.jp
Photo:Simpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka