料理芸人のクック井上。です！
“飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんがあります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れる連載コラム【洋食天国】
vol.20は、虎ノ門『レストラン ケルン』にやって参りました。
創業は今から61年前の1960年（昭和35年）、カラーテレビの本放送開始した年です。
開店当時は、岩戸景気～オリンピック景気、そして、いざなぎ景気へと向かっていくという、日本に一番勢いのあった頃ですね。（今回はオリンピック景気来るのか……？？？）
さて、今回も特別中の特別に、厨房にお邪魔させていただきます。“すいません、ナポリタンお願い致します。”
作って下さるのは、井澤孝行シェフです。まずはフライパンにたっぷりのバター、お次になんと鶏肉が入りました。
チキンライスなら分かりますが、ナポリタンに鶏肉は珍しい！ そこに多めの玉ねぎ・ソーセージ・マッシュルーム・ピーマンをIN。
おっと、ピーマンは繊維に沿った縦切りだ！ それを一気に炒めていきます。
厨房をいい香りが包み込み、炎も興奮している様子です。華麗なフライパンさばきに見とれていると、見るからに太麺の茹で置きスパゲティが投入されました。
ドキがムネムネ……、期待に胸が膨らみます。そして、踊りだすスパゲティにさらなる興奮。
このフライパンさばき、ずっと見ていられる!!（24時間動画配信していただけませんでしょうか？）さて、そんな僕の心の声は置いといて、調理は進みます。
いよいよ、ケチャップでスパゲティは赤く染められます。ほぉら、あっという間。
そろそろ出来上がりかな？ 席へ戻ろう……とした瞬間、もう一つのソースが！ 必殺、デミグラスソーーーーース！ スパゲティが2種のソースを纏っていきます。
いよいよか？ お皿が用意されたので、いよいよその時が来たようです。スタタタタ……（慌てて席へ戻る）。
そしてとうとう、香ばしいアロマを携えて、いらっしゃいました。虎ノ門『レストラン ケルン』の「ナポリタン」様の、おなーりー！ なんという、威風堂々としたお姿。鼻をくすぐるのは、子どもっぽくない、大人のナポリタンの薫り。
早速いただきましょう。
まずは、食品サンプルの状態でカシャリ！ そして、クルクルクルっと巻いて……ズズズっと！ もう参りました。恐れ入りました。世の中には、「 酸味」「苦味」「甘味」「塩味」「旨味」の5つの味があるといわれますが、ケチャップの甘味＆酸味＆塩味、そこにデミグラスソースの苦味＋“風味”、さらに“深味”が加わって、極上の一皿に仕上がっています。使用しているスパゲティは2mm、茹で置きでもっちりした食感はたまりません。
そして良い仕事をしているのが多めのバターと、具材の鶏肉。玉ねぎ・マッシュルーム・ソーセージ・ピーマンはナポリタンの具材としてオーソドックスですが、鶏が入っていることによって、具材としてだけでなくお出汁が染み出て、バターと混ざり合い、ソースの土台の役割になっています。複数のソースと色んな具材の旨味が、何重奏もの味のハーモニーを奏でているという事です。
具材と言えば、縦切りにしたピーマンも素晴らしい。繊維を断ち切る横向きの細切りではなく、繊維に沿った縦の細切りにする事で、炒めている最中に柔らかくなり過ぎず、しっかりとシャキシャキ食感が残ります。味も逃げ出しにくいので、噛むたびに新鮮なピーマンの爽やかなほろ苦さを味わう事ができるのです。
さて、ナポリタンと言えばチーズの粉雪を降らせたいところですが、そのままの味も残したいので、ピンポイントに降雪させます。鼻に抜けるいい香り……、このチーズはパルメザンチーズではなく、オランダのエダムチーズだそう。エダムチーズは、戦後初めて輸入されたチーズらしく、『レストラン ケルン』でも、創業当時から使用しているそう。そうしたエピソードも手伝って、舌も心もノスタルジー。
同様に、全体ではなくピンポイントタバスコと参りましょう。やっぱり合いますね！ そしてビールが欲しくなります。（有難う、燃える闘魂・アントニオ猪木様。あなたのおかげで、このナポリタンにタバスコというゴールデンコンビを味わう事ができます。）
さて、ナポリタンを頬張る途中に食べるのが、ザワークラウトのようなサラダ。心地よい食感に優しいお味でほっこり、良いフォーク休めです。
あとは無心で食べる！ 頬張る、微笑むー!! ラストひと巻きを口に運び、幸せの境地を味わって“ご馳走様でした！” 中年を少年に変えてしまう、しかし、少年にはわからない“深味”“風味”を堪能させていただきました。
ここからは4代目・小林道生さんにお話を伺いたいと思います。
── 『レストラン ケルン』の歴史について教えてください。
4代目・小林道生さん お店は61年目、1960年創業です。元々は五反田で料亭『松泉閣』を営んでいました。大正時代からやっておりましたが、戦争で焼けてしまいまして。その後もしばらくは五反田でやっていたのですが、周りの料亭もなくなっちゃいまして。その後、『松泉閣』時代のお客様で内幸町の飯野ビルのオーナーさんがいらっしゃって、お声がけいただき洋食を始めました。料亭時代を含めると私で4代目になります。
── 料亭から洋食、お店に歴史ありですね。店名の“ケルン”は、何かドイツ料理と関係はあるんでしょうか？
4代目・小林道生さん 「kern（ケルン）」は、山にある石を積んだ道しるべ、あのケルンなんです。元々、ドイツ語「kern（ケルン）」は英語でいうところの「core（核）」の意味があって、東京・日本の中心という意味で付けました。
── 確かにこの辺りには省庁がたくさんあり、日本の中心ですね！ 政治家もお越しになりますか？
4代目・小林道生さん 最近も大臣が何名か、いらっしゃいました。政治家以外にも、省庁の職員さんが食べに来られます。
── 日本を支える政治メシですね！ ちなみにこの「ナポリタン」と同じくらい人気のメニューはありますか？
4代目・小林道生さん 「スペシャルランチ」でしょうか。ハンバーグ・エビフライ・カニクリームコロッケ、そこにナポリタンも乗ってます。
── 夢の競演、まさに“ファンタスティック・フォー”ですね。
4代目・小林道生さん 洋食というと浮かんでくるメニュー全部乗せ、サービス品です。「ナポリタン」は、以前『どっちの料理ショー』に出た時が人気のピークで、多い時でお昼だけで220人前出ました。厨房ではコック全員が「ナポリタン」作ってました。ここのところまた「ナポリタン」人気が盛り返してきました。
── 昭和レトロブームでしょうかね。メニュー見ていたら、全部食べたくなってきました。カレーも美味しそう……。お値打ち価格だから毎日来たいですね。
4代目・小林道生さん 「ケルンの定番 カツカレー」も人気です。うちは要するに“町の洋食屋”ですから、日常の生活の中にある。今はなかなかお酒も出せませんが、ボトルキープして、うちの洋食で飲むお客さんも少なくありません。居酒屋飲みも良いですが、洋食飲みも良いもんですよ（笑）。
今回は、虎ノ門『レストラン ケルン』にお伺いしました。4代目・小林道生さん、そして息子の小林新太さんとカシャリ。有難うございました！ ちなみに、新太さんは現在22歳。コロナ禍前までは、クロアチアのプロサッカーチームに所属していたとのこと。現在はコロナ禍が落ち着いた時のために、トレーニングを重ねながらサッカーコートに戻ることを想定しているのだとか。
「今、ここで手伝いしていることは良い経験になっている。ゆくゆくはという気持ちもあります（息子・小林新太さん）」
「まだまだ好きなことをやって欲しい！（4代目・小林道生さん）」
プロサッカー選手経由、『レストラン ケルン』の5代目。ゆくゆくは、お店でもいい司令塔になられることでしょう。料亭『松閣』から洋食『レストラン ケルン』へ……。日本人の日本人による日本人の為の洋食は、まさに日本の「kern（ケルン）」（核）にあり！ 昨日も今日も明日も、日本を動かす方々の胃袋を支えています。
皆さんの周りにも、歴史ある洋食屋さん、日本の味の洋食屋さん、あるんじゃないでしょうか？ 日本人みんなの憧れの「洋食」という名の、日本が誇るべき食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。まだまだ巡って、その想いや歴史、人や町に触れたいと思います。
P.S 場所柄、お弁当やテイクアウトも好評とのこと。皆さんもぜひ！
レストラン ケルン
東京都港区虎ノ門1-1-28 東洋不動産虎ノ門ビル B1F
03-3591-4158
営業時間 11:00～15:30（L.O15:00）、17:00～20:00（L.O19:00）
定休日 日・祝日
公式サイトはこちら
※ 新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
Text：Cook Inoue
Photo：Takuji Onda
Edit：Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です！ 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も！ ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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