英国でお茶というとアフターヌーンティーを真っ先に連想します。日本ではホテルで頂くような特別なものというイメージですが、英国では五つ星の贅を尽くしたものから街角のティールームで出される庶民的なものまで多種多様。
サンドウィッチの具やスコーンの食感とサイズ、ケーキの種類など、伝統にのっとった上で様々なヴァリエーションを繰り出してくる店々に並々ならぬ熱意を感じます。アフターヌーンティー以外にも、ハイティーという夕食に近いものや、スコーンと紅茶がセットになったクリームティーという軽めのものも人気です。

各家庭でのティータイムはというと千差万別ですが、英国人は概してもてなすことが大好きなように思います。私が友人宅に招かれた際はティータイムにケーキが7種類用意されていて驚いたことを鮮明に覚えています。
TPOに合わせて様変わりし、心に豊かさをもたらしてくれる英国のティータイムに私自身、英国在住時に感銘を受けて日本に帰国してからも毎日の生活に取り入れています。

◆帰国後、試行錯誤してたどり着いたマイスタイル◆
元々紅茶好きだった私も、日本と英国では水質も違い、同じ茶葉を同じように淹れても同じ味にはならないことに気づき、紅茶の抽出方法を大きく見直すことにしました。
自分の好みに合わせてより良いものを求めてしまうたちのようで、様々な分量や蒸らし時間を試し、やっとマイスタイルと呼べるものに出会いました。この記事ではティータイムになくてはならない紅茶の私なりの淹れ方をご紹介出来ればと思います。

◆イギリスの紅茶って、実際にはどんなもの?◆
紅茶と一口に言ってもブレンドティー、ストレートティー(セイロン、アッサム、ダージリンなど)、フレーバードティーまで様々ですが、英国で最も消費されるのは「イングリッシュ・ブレクファスト」というブレンドティー。
アッサム、セイロンにケニアを加えたものが一般的で、その名前の通り目覚めの一杯に最適な力強いボディや、珈琲にも負けずとも劣らない満足感が特徴です。ミルクを入れるとどっしりとしていながらまろやかな味わいになります。
ブレクファストとは言えど、多くの英国人は一日を通してイングリッシュ・ブレクファストを飲みます。実際小さなティールームやカフェではイングリッシュ・ブレクファストかアールグレイしか置いていないこともしばしば。実際に飽きが来ず、各社ブレンド比やアクセントを加え、鎬を削るイギリス紅茶の基本といえるブレンドです。

◆ささやかな楽しみ、茶器を選ぶ◆
どんなカップとティーポットを使うか考えるのも、ティータイムの楽しみの一つ。華やかなアンティーク品からからスタイリッシュでモダンなものまで、茶器によってティータイムの雰囲気はガラッと変わります。
セットの茶器を使うのも統一感があって雰囲気抜群なのですが、違うメーカーやデザインのものを気分に合せて組み合わせるのも服のコーディネートのようで楽しいものです。
私がロンドンに住み始めてまだ間もない頃、よく足を運んだティールームでは、オーナーの膨大なヴィンテージやアンティークのカップ&ソーサー、カトラリーがランダムに組み合わされてお客さんの元へやって来ます。初めて訪れた際にカップとソーサーの種類まで違うのに大層驚いた記憶がありますが、それがなんとも言えず趣があって独特の世界観を醸し出していました。

今日の私のチョイスはこちらです。ティーポットはCauldon社の通称「Brown Betty」と呼ばれているもの。素朴で質実剛健。イギリスを代表するデザインです。
ティーポットは紅茶に含まれるタンニンが付着することで紅茶がまろやかになり美味しくなると言われています。このブラウンベティーだとタンニンの着色も目立たず、ポットの成長が純粋に楽しめます。
一人でお茶を楽しむ時はマグカップを使うことが多く、家族や友人とシェアする際はティーカップを使います。このカップは言わずと知れたWedgwood社のヴィンテージ。地方のアンティークマーケットで手に入れたものですが、ダンヒルのアニバーサリーイヤーに製造されたもののようです。400ccほど入る大容量マグで出動回数も多めです。ダンヒルの歴史を表すようなパイプやライターのイラストがとても洒落ています。

Cauldon社もWedgwood社も歴史あるメーカーで現行品も高い評価を得ている一方で、絵付けや釉薬の発色など若干の差があったり、デザインに微妙な違いがあったりします。1930年代頃の茶器にはアール・デコの影響が強く出ていたり、1950年代頃、いわゆるミッドセンチュリー期には豪華さはないけれど親しみやすいデザインが多いように思います。私が好きなのもこの頃のもの。他のヴィンテージアイテムと同じように、時代性を楽しむことが出来ることがヴィンテージ茶器の魅力と言えます。
◆ちょっとした手間が茶葉の旨味を最大限引き出す「ゴールデンルール」とは?◆
イギリスにはリーフティーを前提とした19世紀から続く「ゴールデンルール」という抽出の方法があります。ティーポットを事前に温めておくこと、茶葉の分量、蒸らし時間のことなどが記されています。実際にお茶を淹れながらゴールデンルールを詳しく見ていきましょう。

何事にでも言えることですが、ちょっとした手間が大きな成果に繋がることがあります。紅茶を入れる際には(他のお茶や珈琲にも言えることですが)事前に茶器を温めます。省いてしまってよいような工程ですが、実はお茶の味わいに大きく関わることなのです。
ティーポット内ではお湯の対流によって茶葉が上下する「ジャンピング」という現象が起こります。この過程で茶葉が開き、カフェインや旨味、香り成分がお湯に溶け出します。活発な「ジャンピング」を生み出すには、出来るだけお湯の温度を高く維持することが大切なのですが、温めていないティーポットに沸騰したお湯をそのまま注ぐと80℃代後半まで一気に冷めてしまいます。少しでも美味しく抽出するため、まずティーポットを温めることから始めます。

◆日本の水でも渋くなりすぎない、究極のマイ分量◆
分量は一杯分につき茶葉3g+湯量150ccが一般的です。私も長らくこの分量で淹れてきましたが、蒸らしを長くとると、日本(軟水)と英国(硬水)の水質の違いもあると思われますが、渋みがとても強く出ることに気づきました。
ある時、フランス紅茶のサロンで紅茶を頂いた際に、5分しっかり蒸らしていても渋みがきつくなく不思議に思いました。調べてみたところ、フランス紅茶では英国紅茶に比べて湯量を多めにとることがわかりました。試しに茶葉3gに対して180ccに設定してみたところ、力強さやコクはそのままに渋みの抑えられた抽出が出来ました。

今回使用する茶葉はロンドンの老舗デパートFortnum & MasonのRoyal Blend。エドワード7世のため1902年にブレンドされて以降、同社のベストセラーとなっています。ヒースロー空港でも購入出来るため観光客にもお馴染みの銘柄ですが、現地では普段使いから来客用までカバーしてくれる高級紅茶として不動の地位を確立しています。
セイロンとアッサムという、イングリッシュ・ブレクファストと同系統の組み合わせで一日を通して楽しめるブレンドティーです。私がRoyal Blendに出会ったのは小学生の頃。実家に贈り物としてやってきました。この銘柄の特徴である、ハチミツを思わせるような味わいに感動し、それ以来125g缶を切らしたことがありません。

お湯が沸騰して5円玉ほどの泡が出始めたら、茶葉の入ったティーポットへ注ぎ、3〜5分蒸らします。私はどっしりとしたミルクティーが好みなので(ブレンドティーの場合)しっかり5分待ちます。この時、ティーコージーを被せるのをお忘れなく!

時間が来たら、茶漉しでカップに注ぎます。お茶は最後の一滴に一番旨味が詰まっていると言われています。ティーポットを傾けたまま静かに最後のゴールデン・ドロップを待ちましょう。

◆ミルクが先か、紅茶が先か◆
ミルクは冷たいものを用意します。日本でよく供される温められたものは、独特の香りがあるので紅茶の香りを邪魔(英国人は激怒するかも?)してしまいます。
ちなみに英国ではカップに先に紅茶を注ぐかミルクを注ぐか、長い間議論されていて未だに決着がついていません。英国で紅茶が消費され始めた頃は陶磁器の精度がまだまだ低く、熱いお茶をいきなり注ぐと割れてしまうこともしばしば。そこで先にミルクを注いでおくこと(ミルク・ファースト)で紅茶を適度に冷ますという方法が生まれ、伝統として根付いています。
20世紀に入ってからは陶磁器にも十分な耐熱、耐久性がつき、熱い紅茶を注いでも問題ありません。また、ミルク・ファーストの欠点である、ミルクの量や紅茶の濃さを見誤るということもありません。伝統か、合理性か、英国人の議論は続きます。絶妙のバランスでミルクティーを楽しみたい私は後者です。ミルクの量はお好みですが、赤みのあるベージュくらいが私は好みです。

五臓六腑に染み渡るミルクティーの出来上がりです!
◆そんな時間ない!というときは◆
こだわって淹れたリーフティーに勝るものはないですが、朝や仕事の休憩中などにはなかなか難しいものです。時間のない際は無理せずティーバッグを。温めておいたカップに(可能であれば)、沸騰したお湯を注ぎ、静かにティーバッグを落とします。これで3分。この順番がとても大切で雑味を最小限に抑えられます。
ティーバッグ用の茶葉は細かく砕かれたブロークンタイプが主流で、お湯を注ぐ勢いがなくても十分に抽出が可能です。これは間違って先にお湯を注いでしまって仕方なくティーバッグを入れた際に偶然発見したことです。最近ではリーフティー用の茶葉を使用したものもありますが、こちらは茶葉が開くまで時間がかかるのでティーバッグ→お湯の順番がベターです。是非お試しあれ!
photos&text: Kohki Watanabe

◆渡邉耕希(わたなべ・こうき)◆
愛媛県出身の1992年生まれ。ロンドンの大学でクラシック音楽を学ぶ。現地でヴィンテージ・アイテムの魅力に取りつかれ、服や靴を中心にアイテムの歴史的背景まで探求するようになる。無類のスイーツ好きが高じて開設したYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にて料理や英国菓子作りを通して日本で実践できる英国的生活を発信している。













