ルールを知ったうえで、あえて自分なりのアレンジで楽しむのが紳士のスタイル
今回はヨーロッパ出張の際、現地でクラシックなテイラーやお店などを取材するときのスタイルという想定でコーディネイトしてみました。
やっぱり、相手がクラシックなファッションを生業としている素敵なオジサマだと、こういう格好のほうが安心感を与えるのか、いろんなこと話してくれて会話が弾むんです。きっと共通の価値観をもっていると認識してくれるんでしょうね。
アイテム
ブレザー/カスタムテーラー ビームス
シャツ/アルコディオ
ネクタイ/ブルネロ クチネリ
パンツ/ロータ
チーフ/マリアーノ ルビナッチ
ベルト/ジョンロブ
時計/ヴァシュロン・コンスタンタン
リング/アスプレイ
バッグ/エルメス
靴/WH
ここでは、オジサマ相手のスタイルということにしていますが、僕が何を言いたいのかというと、ファッションは自分のためだけじゃなくて、相手や周囲を慮る気持ちが大事だってこと。相手が誰であろうと、そういう気配りが良いコミュニケーションを生むための秘訣だと思うんです。
トレンドを身に着けるのも、それはそれで楽しいのですが、大人たるものファッションもマナーのひとつとして考えるべきでしょう。それが結局、内面の成熟とか色気につながりますからね。
では、コーディネイトの解説に移りましょうか。今回のネイビーブレザーは、過去にも幾度となく登場しているビームスでカスタムオーダーした一着。通常のダブルブレストは4ボタンや6ボタンが主流ですが、あえて8ボタンにしたのがポイントです。
前にも書きましたが、チャールズ皇太子が8ボタンのネイビーブレザーを着ている写真を見つけて、真似してみようと思ったのがきっかけでした。どんな場面でも完璧な着こなしを見せてくれるチャールズ皇太子のスタイルは、本当とても参考になります。
あとダブルっていうのにグッときたんですよね。カレッジスポーツを起源とするシングルブレザーに対して、こちらは英国海軍がルーツ。もともと大好きな軍モノ由来の精悍さがあるうえ、ボタンが多いほうが、制服っぽさが増すんじゃないか(!)というのが狙いでした。
何度もお伝えしている通り、制服には独特の色気があると思うんですよ。だからこそ、この一見、禁欲的で真面目な服の別の一面を見てみたいという衝動に駆られてしまうのです。
ちなみに、このブレザーを購入したのは15年以上前。数年前にお直しに出して、肩パッドを抜いて、着丈を3センチほど短くしたのですが、今シーズン着てもまったく違和感ないですよね。こんなふうにトレンドの影響が少ないのもクラシックの醍醐味。
「多くの粗悪なモノよりも、少しの良いモノを」というのを持論にしてきましたが、ファッションにも“サステイナブル”が求められるいま、長く着られるクラシックの良さを もう一度見直すべきではないでしょうか。
さらに、このコロナ禍でファッション業界全体の構造のリセットが叫ばれています。トレンドを安く、大量に、素早く提供するために、世界中に張り巡らされたサプライチェーンは分断され、今後これまで通りのやり方を続けるのは難しいでしょう。そう考えると、僕たちは一度立ち止まって、これからのファッションを考えるいい時期なのかもしれませんね。
話が脱線してしまいましたが、コーディネイトの解説に戻ると、Vゾーンは白シャツにグレーのソリッドタイ、ボトムスはネイビーブレザーにはグレーパンツをチョイス。ここまでは鉄板ですよね。
正統から外れるとしたら、大剣幅7センチのナロータイを選んだことでしょうか。それでもまだ許容範囲。バッグやベルトの金具、リングは、ブレザーの金ボタンに合わせて金色を選んでいるのもセオリー通りです。
で、ここからが本番。ブレザーの着こなしは本来、金ボタン自体をアクセサリーと見なす向きがあり、装飾性の高いポケットチーフは挿さないのが定石とされていますが、あえてここではプラスしてみました。イタリア服飾文化の重鎮、マリアーノ・ルビナッチさんからの直伝テクニックです。
挿し方はクラッシュだと華美になってしまうので、パフドスタイルに。金ボタンに合わせて、少しだけ金色の入った柄を選ぶのもポイントです。あと、昼はマット、夜は光沢のある素材を選ぶのが良いそうです。わかっていてあえてやるのと、知らないでルールを破るのは大違い。何ごともバランスが大切ですから……。
それとボリュームのある靴を合わせたのも、僕なりのアレンジです。ちなみに、ブレザーの8ボタンは上4つ掛けが基本ですが、ここでは下4つ掛け。そうするとVゾーンが広く見えて、男性的な印象を与えることができるんです。その昔、ラルフ・ローレンさん自身がそう着こなしているのを見て、この技は絶対にパクろうと……(笑)。
変化が乏しく面白みに欠けるといわれるクラシックファッションですが、こうして自分なりの工夫をすれば、存分に楽しめるのがおわかりいただけたんじゃないでしょうか。今日の格好は、グレースーツが定番の自分のスタイルのなかではかなり華やかなほう。たまに身に着けたくなる派手下着といったところですね。
いち早くコロナが収束することを願い、 #STAYHOME #お家にいよう
今回のスタイルのキモは……。
● ファッションは相手や周囲を慮る気持ちが大事。
● 禁欲的なブレザーは、時としてエロ心に火をつける。
● “サステイナブル”なクラシックは今後もっと注目されるべき。
● 自分なりのアレンジを加えたルール破りもまた楽しい。
● いまは、お家にいよう。
Photo: Ikuo Kubota (OWL)
Styling&Model:Yoshimasa Hoshiba
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【エロサバ】-Hoshipedia
「エロサバ」とは、エロいコンサバの略で、干場の哲学により生まれた造語。シンプルでベーシック、コンサバティブな洋服を着ているのに、なぜかエロく見えるスタイルのこと。例えば喪服の女性。成熟した大人の女性が喪服を着ていて、メイクもナチュラルで抑制しているのに、不思議と色っぽく見えるスタイル。例えば、普通の白いシャツを着ているのにも関わらず、胸元のボタンの開け方や袖口のまくり方でSEXYに見えるスタイル。粗悪な素材でデザインが変わっているシャツでは駄目。上質な素材でベーシックなシャツだからこそ、崩して着こなしても上品さが保てるのです。男性で例えるなら、仕立てられたグレーの無地のスーツを着て、上質な白シャツに黒の無地のネクタイのような極めてコンサバティブなスタイルをしているのに、内側から大人の色気が香るスタイルのこと。