干場:さて、竹のストレートチップはどんなものかというと……。
中村:これはイタリアのマルケで作られているFABI(ファビ)というブランドの靴です。はボロネーゼ製法で7万6000円。同じような作りですと通常14万円くらいしてしまいますが、まだこのブランド自体がそれほど知られていないので、価格が抑えられているんです。
ちなみに他の百貨店でもこのブランドを扱っているところがありますが、オリジナル別注の取り扱いは日本では伊勢丹新宿店・銀座三越だけになります。
干場:14万円が、7万6000円ですか!? コスパの高さが凄いですね。
中村:ここの革工場はとても大きくて、レディスとメンズの生産の割合が半々なんです。歴史もあり、現在2代目になります。靴作りのポイントとして、そのブランドの歴史がきちんとしているか、こだわった機械があるか、昔ながらの伝統がありつつも進化しているか、といったところが重要なんです。
干場:なぜ、ボロネーゼ製法にされたんですか?
中村:とにかくコンフォートなんです。履き心地がいい。ソフトタッチでスニーカー感覚で履いていただけます。これこそが求めていた靴。グッドイヤー製法のような、革があってコルクがあって革がある、となると固いですよね。そこにWHのようにコンフォート感を入れたかったんです。でも厚底ではイヤという方が多いんです。薄いソールで1日快適に過ごせる靴が欲しいという声が多く、それに応えるべく作りあげたのが、このボロネーゼ製法の靴を選んだ理由です。
干場:なるほどね。(触って)柔らかいですね。
中村:(アッパーが)こんなに曲がるんです!
干場:ぐにゃり!
中村:先ほど(梅)の靴ですと、やはり、なかなかこうはなりません。
干場:確かに!
中村:縫い目も少ないんですね。足に触れる面に糸が少なければ少ないほど快適なんです。内側を高品質な革にしているので汗の吸収にも優れています。
干場:先ほどのモノより、素材のグレードを上げているんですね。
中村:ボックスカーフを使用していますが、とても柔らかいです。タグには作った職人の名前が入っていて、これはこの人が責任を持って作った、という証になっています。
干場:どこどこ産の誰々さんの作ったトマト、みたいな感じですね。「私が作りました」っていうような。
中村:そうです! 時代の進化って著しくて、製法は同じでも素材を変えることでかなり違ってくるんです。形状記憶的な反発防止に近い施しをすることで履き心地がより良くなったり。
ストレートチップって、おそらく重要な会議や儀式、自分が力を入れたい日に履いていく靴だと思うんです。あまり履く機会は多くないかも知れないのですが、履き心地が痛くてあまり履きたくない、という方にこそ、ぜひ快適に履いて欲しい。そう思って作ったのが、このボロネーゼの靴なんです。これに合わせるスーツを買おうと思える、快適な履き心地を目指しました。
干場:なるほど。シェイプも綺麗ですよね。スーパーカーのような流線的なフォルムです。
中村:おしりの部分と顔を見て、アールが綺麗に出て黒光りするのが美しい靴と言われています。
干場:とても7万6000円とは思えない高級感があります。これは相当気に入りました。では、最後の松をお願いいたします。
中村:それは……エドワードグリーンの202です。
干場:エドワード グリーン、ロゴが変わりましたね。
中村:そうなんです、去年の11月に変わりました。 私が考える男が履く男らしい靴ってエドワードグリーンだと思うんです。これは干場さん、持っていないとダメですよ(笑)。ジョン ロブだと、品格があり、少しかしこまりすぎてしまう気がするんです。 エドワードグリーンはお手入れをし、一生のパートナーとして付き合っていける、そんな靴のような気がします。またエドワードグリーンはそれぞれ木型がありますので、選ぶ木型によって表情が異なります。一時はこの202という木型は売れなくなったんです。今から15年くらい前にノーズがとても長い靴が流行って。
干場:そうですね。ロングノーズの靴は、ちょうど僕が『LEON』にいたときに流行っていました。揺り戻しがありましたね、トラッド回帰への。それでこの202のラストが改めてよく見えてきた。今、これはおいくらですか?
中村:15万6000円です。私が入社したときは、8万9000円でした。
干場:そうなんですね。これはどこの革を使っているんですか?
中村:これはボックスカーフを使っています。ドイツ製やフランス製と厳選な目で選ばれた革のみです。
干場:ボックスカーフもランクがありますよね。
中村:はい、こちらは非常に上品な革です。ここまでくると1頭につき(とれる革は)2足分くらいですね。生後4〜6か月の革になります。例えば、先ほどの7万6000円ランクのものになると1頭につき4足くらい、という感じになります。
干場:完成度が高いですよね、エドワードグリーンの靴は。フォルムもそうですし、革、バランス、すべてが高次元です。
中村:そうですね、昔から変わらないですし。革の価格が凄く高騰しているので、値段は上がっていますが。今、環境破壊によって優秀な牛が育っていないんです。きちんと良い餌を食べていないと、作られてくる革の質も落ちるんです。環境破壊によってアレルギーにかかってしまう牛もいます。人間と同じなんです。そうなってくると、使える革が限られてしまって、価格も高騰してしまうんです。
干場:牛でもアトピーになったりするんですよね。
中村:そうなんです。皮膚病になったりして、それによって革が割れてしまったり、いくらなめしてもダメだったり。
干場:僕、昔、アトピーだったんですよ。16歳くらいまで。皮膚科の先生に日焼けしなさいって言われて、ひと夏に3回くらい海に行って皮が剥けたら、綺麗になってしまった。荒療治みたいなものなので、皆さんにはおすすめできませんが……。「海はいいよ」っていう話なんですけどね。
中村:確かに海水は良さそう。革も塩漬けにしますからね。
干場:革の艶など質のクラスが全然違いますよね、グリーンクラスになると。
干場:どこのブランドも値段が上がっていますよね。昔、5万円の靴って高くて良い靴っていうイメージでしたが、今、5万円と言われると安く感じます。今、ある一定レベルの靴を買おうとすると、15万円くらい出さないと買えないですよね。クロケット&ジョーンズで10万円くらいですか?
中村:7万6000円以上になります。以前は5万円台の時期もありましたけれど。
干場:チャーチも良い値段ですよね。
中村:チャーチは少し下がりました。やはりあまり高いとなかなか買えないですよね。
干場:形が綺麗で作りが良くて、値段も適正、というのが理想ですよね。
中村:今日、おすすめした中では、気に入っていただけたものはありますか?
干場:実は、ストレートチップは僕が一番初めに買ったドレスシューズなんです。そして、このエドワードグリーンの202も持っています。20年前くらいに買って、長い付き合いで、相棒のようなものです。
中村:そうなんですね!
干場:僕はこのエドワードグリーンの202の黒と茶を持っているので、中村さんの気持ちがとてもわかります。普遍の一足ですよね。しかも、どちらもストレートチップです。タイムレスでエレガント。ある意味これが松というのは正しい見解じゃないかな、と僕も思いました。
でも、僕の靴、実はソールは替えてしまっているんです。20年前ぐらい、ミラノで雪の日にエドワードグリーンを履いていて、つる~んと滑ったんです。それ以来レザーソールが苦手で、ダイナイトに替えているんです。それから、普段履いているような靴は、基本的に全部ラバーソール。だから自分でWHを作ったというのもあるんですが……。
エドワードグリーンは馴染んでくると、本当に良いんです。インソールが沈んで足に合って履いてないかのような心地良さ。間違いのない形で、最後にたどり着く靴です。ファッションがどんなに変わってもスタイルがある人はエドワードグリーンを選ぶんじゃないかな。
中村:なるほど、一貫したファッション哲学をお持ちの干場さんだからこそ、凄く説得力がありますね。
干場:ビジネスマンの方って電車の中でとても疲れて眠りこんで靴脱いでしまっている人もいるじゃないですか。先ほど、柔らかくて履き心地がよくて、さらに汗のことまで考えられているお話がありましたよね。そういう方にぜひ履いてみていただきたいですね。エドワードグリーン以外は僕も履いたことがないので、ぜひ履いてみたいな、と思います。
中村:エドワードグリーンはサイズを明確に合わせられるのもいいですよね。ワイズも選べるので縦横きちんとサイズの合ったものを履いて長く付き合って欲しい靴です。
干場:最後に、今日中村さんが履いている靴はどちらのものですか?
中村:PERFETTO(ペルフェット)のものでオーダーして作りました。
干場:とても似合っています。今日はどうもありがとうございました。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Yoshie Hayashima
Edit:Satoshi Nakamoto
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株式会社三越伊勢丹 紳士靴 バイヤー
入社以来、紳士靴畑を歩み続けるベテラン。シューカウンセラーの資格も持っている。名靴ブランドの工場へ赴き、熱心にアーカイブを発掘して、スペシャルな別注品を毎シーズンしかけたり、新しい靴ブランドを発掘するなど、名靴を発掘する一年中べく、国内外への買付けに東奔西走する日々です。