忙しいビジネスマンが
寸暇を惜しんで並ぶ
「交通会館の上層部や、(大手ディスプレイデザイン会社)乃村工藝社の会長、ユナイテッドアローズの重松会長といった方々が連帯して、この場所で商売することを後押ししてくれたんです。『有楽町を、昔のような人情味ある街にしたい』という一心でね。本当に感謝してもしきれない。でもそれは、誰の靴でも損得ヌキに一生懸命磨く、千葉の人柄があってこそだと思う」
俳優の染谷将太、菊地凛子夫妻も千葉の腕に魅せられたお客さんの一人だ。染谷がまず千葉のファンになり、菊池を誘って磨きに来るようになったという。ヤクザの親分から大物政治家、財界のトップに至るまで「千葉ファン」は多いが、どんなVIPに対してもVIP扱いはしない。客の顔より、靴を見て仕事をするからだ。

そんな千葉に、靴を磨いてもらいながらインタビューを行った。以下、一問一答。
――靴を磨くうえで、一番重要なことはなんですか?
「革に呼吸させること、柔らかくすること。それが大前提。光らせることじゃないんです。人間の肌も皮でしょう。だから厚化粧をすると、ひび割れちゃうんだ。呼吸をさせて、本来の柔らかさを出してあげるのが大前提」
――色とか汚れとかっていうより、そっちの方が重要?
「最も重要だよ」
――私の靴は、どんな感じですか?
「艶出しで、硬くなってる。艶出しすると硬くなりやすいから」
――始めは、それはハケを使って汚れを落とすんですね。
「いいや、ハケじゃない。ブラシ。汚れを取るんじゃない。汚れは水抜きでとります」
――千葉さん、元々は鉄鋼会社にいらしたんですか?
「鉄鋼っていうか建築会社ね。だからありとあらゆる事業を見てきたんだよね。だからこの部品をどこどこのものに据え付けるとか、非常に細かい作業を確認を繰り返してやってきた。一つでもミスを犯したら、それを全部取り外してもう一回やり直さないといけない。違う場所で使えないんだ」
――そのときに溶剤の知識を勉強したことが、いまの仕事に活きていると聞きました。
「そう、当然そういうのも不具合がね、金属だからいっぱいある。溶剤で汚れを、特に油汚れをみんな落とさないといけないから。そこに不純物があると、0.0001ミリ、1000分の1ミリ単位で不具合が生じちゃうんです」
――0.0001ミリ! 凄い世界ですね。最終的にどんな製品になるものを作ってたんですか?
「タービン。発電機のタービン。1000分の1ミリを図る水平器がある。それで計って据え付けるんです。傾きを調べる。それで傾きを直すのにね、最も原始的なことをやるんですよ。文明の社会で。なんだと思います?」
⇒原発での作業経験を語る